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「淫乱処女」であるメガネ男子・関根くんは、非モテの敵か味方か――『関根くんの恋』

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『関根くんの恋 4』(太田出版)
男だって、堂々と女子マンガが読みたい!――そんな内なる思いを秘めたオッサンのために、マンガライター・小林聖がイチオシ作品をご紹介!  「メガネ男子」ってやつが憎い。かくいう僕も、小学校時代からメガネをかけてきた生粋のメガネ使いだ。コンタクトレンズに浮気したことだって一度もない。なので、ごくごく当然のこととして、自分のことをメガネ男子だと思っていたんだけど、何年か前に女の子に言われた。「あんたはジャンルとしては、メガネ男子じゃなくて“のび太”だ」と。  のび太。彼女の区分では、日本を代表するメガネドレッサーであるところののび太は、メガネ男子ではないということらしい。確かにのび太は原作では、大人になってからメガネをやめているけれど、たぶんそういうことではない。メガネ男子とは、メガネをかけてりゃいいってもんじゃないのだ。  そんなこともあって、僕はメガネユーザーでありながら“メガネ男子”というやつに嫉妬している。それでいうと、ここ数年一番悔しいのが『関根くんの恋』(河内遙)の関根くんだ。関根くんに対する感情は、愛憎としかいいようがない。  『関根くんの恋』は、タイトルどおり主人公・関根圭一郎の恋愛を描いた作品だが、この関根くんがそそる。三十路で、周囲の女性がうっとりしてしまうほどのイケメン。仕事も抜群にできるし、なんでも人並み以上にこなせる。だけど、関根くんのすごみは、そういうスーパーマン的な部分ではない。  関根くんは、イケメンで優秀すぎるがゆえに、積極的に自分から女性にアプローチせずに済んできた。そういう関根くんが、人生で初めて自分の恋心に気付くところから物語は始まる。しかも、その恋に気付くのは、その相手が結婚した後なのだ。そして、そこから関根くんの新しい恋が始まっていく。  そういう関根くんの姿は、モテない男のそれでもある。ヒロインである如月サラに習う手芸に没頭しながら、ああすればよかったとかこうすればよかったとかイジイジ悩む姿は、はっきりいって童貞くさい。そういう関根くんが、どこか肯定され、許されていく物語は、モテない人生をやってきた僕にとっても共感でき、甘い気持ちにしてくれる。  一方で、関根くんの煩悶は強烈な魅力でもある。繊細なイケメンメガネ男子である彼が、童貞みたいに不器用に悩む。しかも、悩みながらも、女の子がベンチに座るときにさっとハンカチを敷いてあげたり、ごく当たり前みたいに花束を抱えて絵になってしまう。その立ち振る舞いが、いちいち完璧で色っぽいのだ。悔しいけれど、こんなことはモテない僕には絶対できないし、できてもサマにならない。関根くんは共感できる一方で、その色気で圧倒し、絶望させてくる。  はっきりいって、この関根くんのキャラクターは反則的だ。それは、女の子に置き換えるとよくわかる。イケメンで優秀、天然のタラシでありながら、不器用でウブという関根くんは、いわば「美人で淫乱な処女」みたいなもんだ。要するに本来は無理筋の存在で、美しい妄想だといっていい。  ただ、この反則性は欠点ではない。本来並び立たないはずの2つの魅力を、関根くんは説得力を持って同居させている。完璧な王子様の魅力を味わわせてくれると同時に、初恋のような初々しい気持ちもくすぐってくる。  いわゆる女性誌での作品発表が多い河内遙が、男性的な感性の作家だというつもりはない。本人がどういう人なのかも知らないし、男性観について聞いたわけでもない。だけど、河内作品の描く男性像は、常に煩悶している。脆さや舌足らず的な不器用さを持っている。  それは、単に草食系というより、モテない、恋愛に苦手意識がある層に響く力を持っている。だから、ひがむ気持ちの一方で、どうしても愛してしまうのだ。悔しいけど。 (文=小林聖 <http://nelja.jp/>)

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