「女性の恥骨の下にある、膣壁前方上部の小さな領域を『Gスポット』といいますが、この『G』の由来となった、女性器の研究で有名なドイツの産婦人科医は誰?」 これが、「地下クイズ王決定戦」記念すべき第一問目の問題である。ちなみに、正解は「エルスント・グレフェンベルク」。この問題に、初代王者となる渡辺徹(タレントの渡辺徹とは同姓同名の別人)は、当たり前のように正解した。 その後も、 「2012年、所得隠し問題によって出演番組を降板し、関係各方面に迷惑をかけている板東英二。さて、板東英二の個人事務所の名前は何?」(正解:オフィスメイ・ワーク) 「北海道万念寺に安置されている、髪が伸び続けているといわれているお菊人形。この『お菊』の本名は何?」(正解:鈴木菊子) 「ヤクザの隠語でリボルバー式拳銃のことを、その形が似ていることから、ある野菜の名前を使ってなんという?」(正解:レンコン) 「1989年東京・埼玉連続幼女誘拐殺人事件で世間を震撼させた宮崎勤が、犯行声明文で名乗った女性名は何?」(正解:今田勇子) というような早押しクイズが、次々と出題されていく。 「地下クイズ王」とは、BSスカパー!の人気番組『BAZOOKA!!!』の名物企画である。その第1回が放送されたのは2013年2月26日。出題されるクイズのジャンルが「ゴシップ」「殺人鬼」「オカルト」「裏社会」「宗教」「セックス」という、地上波ではあり得ない狂った問題ばかり。これがクイズ好き、アングラ好きなどに話題を呼び、第2回(13年6月)、第3回(14年12月)と回を重ねていった。その3回の大会すべてで優勝したのが、前述の渡辺徹である。 史上最年少で『FNS1億2000万人のクイズ王決定戦』に出場したキャリアを持つ渡辺は、無尽蔵のアングラ知識で淡々とクイズに正答し続け、「地下クイズ王」の“絶対王者”の風格を漂わせている。 彼の最大のライバルが、AV男優・しみけんである。第2回大会から出場したしみけんの登場は衝撃的だった。オープニングクイズの7問中6問を、驚異的なスピードの早押しで正解。AV男優という肩書やそのキャラも相まって、「地下クイズ王」の新たなスターの誕生を確信させるに余りあるインパクトだった。序盤に大差をつけたしみけんが、そのまま優勝を奪うかと思われていたが、高得点になる後半の難問を次々と正解していったのは、やはり王者・渡辺。大逆転劇を演じたのだ。 そもそもしみけんは、少年時代から「クイズ」に魅了されていた。だからもちろん「AV男優」歴よりも、「クイズ」歴のほうがはるかに長い。クイズ研究会に所属していた学生時代には『おサイフいっぱいクイズ!QQQのQ』(TBS系)にも出演したこともあるという。 そんなしみけんへの出演オファーは、ある意味、極めて「地下クイズ王」らしい狂ったものだった。突然、知らない番号からかかってきた電話に出てみると、開口一番「GスポットのGはなんの略?」と問題が出題された。ワケがわからぬまま「グランフェンベルク」と答えると、「正解です! じゃあ、ご飯一緒に食べよう」。そこで、正式にオファーを受けたのだ。 続く第3回大会でも、渡辺vsしみけんの対決は続く。しみけんはオープニングクイズで一問も正解できず出鼻をくじかれたが、「薬物の10」の問題では「今年12月……」という出題の時点で早押しし「しぇしぇしぇのしぇー」を正答し、本来の調子を取り戻す。渡辺も、着実にポイントを重ねていく。この2人に、初出場で強烈なキャラクターを持つ女性・篠原かをりを加えた三つ巴のような展開。優勝決定は、最終問題までもつれ込む大接戦。そして最後に正解したのは、やはり“絶対王者”渡辺だった。泣き崩れるしみけん。その熱い姿に、「物語」は最高潮に盛り上がりを見せたのだ。 そしてついに7月6日、第4回「地下クイズ王」が放送時間を90分に拡大し放送された。出場者は3連覇中の王者・渡辺、そしてもちろん、しみけん。彼は、「3回もチャンスを与えられて優勝できなかったら、次はない」と不退転の覚悟で、3日間仕事を休んでまで挑む熱の入れよう。 さらに、伝説的クイズサークル「コンモリ」の代表・丸山洋平、前回大会でインパクトを残した篠原から「若手女性最強」と推薦を受け、「得意なジャンルはセックス」と言ってのける高野望、そしてこの企画への出演を熱望していた能町みね子が『BAZOOKA!!!』のレギュラー出演者による「BAZOOKA!!!オールスターズ」の助っ人として参戦。過去最強の布陣といっていいメンバーがそろったのだ。 問題はこれまで同様、「イスラム国の処刑動画に登場する黒マスクの男の通称『ジハーディ・ジョン』。この名前の由来となったミュージシャンは誰?」「女性の下着や水着が性器に食い込んだ『スジっている』状態を、英語で動物のひづめに喩えて『何・トゥ』という?」「幸福の科学の月刊機関紙で小学生がターゲットなのは『ヘルメス・エンゼルス』ですが、大学生をターゲットにしたものは何?」「北朝鮮の『喜び組』は活動内容から大きく3つに分かれます。では、性的なサービスをするのは『何組』?」などという、地上波では決して出題されない狂った問題が連発。それに加え、たとえば最後に例を挙げた問題には正答の後、「入団の時点で『処女』であることが条件とされている」などと補足解説までついてくる。 だが、「地下クイズ王」の魅力は、こうしたアングラ知識が入り乱れるところだけではない。なんといっても、クイズ番組として極めてまっとうだということだ。全編が「○○の10」「××の30」などとクイズのジャンルと難易度(ポイント)を選択し、出題されるというオーソドックスなシステム。通常、テレビ番組で行われるクイズ大会は、バラエティ的な面白さを担保するためにクイズ以外の要素が入ってしまう。だが、「地下クイズ王」はクイズ自体が「アングラ」という特殊要素を入れたことで逆に、純粋な「クイズ」だけの大会として成立させているのだ。 能町みね子は、「地下クイズ王」の魅力を問われこう答えている。 「こんなにアングラでこんなに暗~い感じでやってるのに、スポーツに見えてくる」 コンマ何秒の差でボタンを押し、超難問に頭の中の知識を総動員して答えを導き出す。“今度こそ”の執念で、汗が飛び散るような勢いで答えていく、しみけん。まさに「地下クイズ王」は、知的スポーツに呼ぶにふさわしい。そうして死力を尽くして答えた回答が「パイパン」だとか「エネマグラ」「ラブリンネイル」「スウィーツKURENAI」などというのだから、くだらなくて最高なのだ。優勝賞品は、シリコンボール注入権やらオリジナルタトゥー無料権。そんなもののために必死になるのは、狂っているのかもしれない。狂った問題で競う、狂った人たち。 「地下クイズ王」には、テレビが本来持っていた見世物小屋的な原風景が広がっている。 (文=てれびのスキマ <http://d.hatena.ne.jp/LittleBoy/>) ◆「テレビ裏ガイド」過去記事はこちらからしみけんTwitterより
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AV男優しみけんvs 絶対王者の熱きバトル!『BAZOOKA!!!』「地下クイズ王」という知的スポーツ
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