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こんなの夜神月じゃない!? 窪田正孝がつくる『デスノート』の新世界

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『デスノート』日本テレビ
 こんなの夜神月じゃない!  7月5日から始まったドラマ『デスノート』(日本テレビ系)を見て、多くの原作ファンがそう思ったのではないだろうか? 原作の夜神月は、いわゆる“天才”。ズバ抜けた頭脳を持ち、容姿端麗でスポーツも万能。スペック的にいえば完璧な存在だった。それゆえ、歪んだ正義感と選民意識を持った、極端な負けず嫌いで、冷酷非道な性格として描かれていた。そんな少年漫画らしからぬ非・共感系の主人公である月と、名探偵Lという天才同士の高度な頭脳戦が、原作『デスノート』最大の魅力だった。その後制作されたアニメ版や実写映画版も、当然、この設定を踏襲したものだった。  だが、今回のドラマ版では、月は「平凡」な大学生の設定に変更されたのだ。しかも、オープニングでは、アイドルに対してペンライトを振っている。「平凡」よりも「オタク」寄りな青年なのだ。また、いよいよ拾った「デスノート」に英語で書かれているノートのルールも、辞書を引きながら読む。頭脳明晰とはほど遠い存在。いわゆる、「どこにでもいる」大学生として描かれているのだ。原作ファンから悲鳴が上がるのも無理からぬことだ。  しかし、ここで視聴をやめてしまうのはもったいない。なぜなら、その新しい月を演じているが窪田正孝だからだ。  念のため、いま一度『デスノート』のストーリーを確認しておこう。ある時、月は奇妙なノートを拾う。それこそが死神リュークが落とした「デスノート」だ。そのノートに相手の顔を思い浮かべながら名前を書くと、相手が死亡するという。最初は、そんなわけがないと思いながら名前を書いてみると、実際にその相手が死んだ。そして、目の前には死神リュークが現れる。そこから月は、犯罪者がいない理想の世界をつくるため、犯罪者を次々と「デスノート」で殺していくのだ。やがて月は世間から“新世界の神”「キラ」として英雄視されていくことになる。そんな月の殺人の証拠を暴き逮捕しようとするのが、天才名探偵「L」と、月の父親で刑事の夜神総一郎である。  天才同士の頭脳戦から、平凡な学生が「デスノート」を手にしたことにより権力に挑んでいくという設定に改変されたのは、ゴールデンタイムに放送されるテレビドラマとしては、仕方のないことだろう。最初からほとんど葛藤や罪の意識なしに、人を殺していく主人公は共感しにくい。なにより、アニメ版や実写映画版ですでにそれは描かれている。ならば、新しい、テレビドラマならではの『デスノート』をつくろう、ということだろう。  そんな新しい夜神月を演じるのに、窪田ほど打ってつけの俳優はいない。窪田は、深夜ドラマ『チェケラッチョ!! in TOKYO』(フジテレビ系)でいきなり主演として俳優デビュー。大きな注目を浴びたのは、その2年後の2008年に始まった『ケータイ捜査官7』(テレビ東京系)だろう。テレビ東京の大型特撮ドラマとして大々的に始まったこの作品で、窪田は主人公の少年・網島ケイタを好演する。「平凡」な少年がたくましく成長していく姿を非凡に演じ、総監督を務めたあの三池崇史からは「10年後に君を選んだ理由がわかる」と絶賛された。  その後も着実にキャリアを積み、大河ドラマ『平清盛』(NHK総合)の平重盛役や、朝ドラ『花子とアン』の朝市役などで鮮烈な印象を与え、ブレーク。最高の助演俳優としての地位を確立した。さらに『Nのために』や『アルジャーノンに花束を』(ともにTBS系)でも重要な役どころを演じ、主人公を食うような存在感を見せつけていた。  そして満を持して、『デスノート』の主人公を演じるのだ。三池の言う「10年後」を待たずして、大役をつかんだのだ。  正直言って、窪田なら、原作に近い「天才」夜神月も、完璧に演じてくれただろう。それどころか、ライバル「L」も窪田が演じれば、映画版で松山ケンイチが完璧に演じた「L」に勝るとも劣らないものになっていたのではないか。そんな想像を喚起してしまうほど、彼はどんな役も演じられる振り幅の広い俳優だ。  だが、窪田の最大の魅力は、なんといってもその繊細さ。繊細さゆえに、狂気をもはらんでしまう若者を演じさせたら、右に出るものはいない。透明感と底知れぬ闇を同時に表現できる、稀有な若手俳優なのだ。それはまさに、今回のドラマ版・夜神月像にぴったり合致する。  「デスノート」で人を殺し罪の意識に苛まれ悩み狂う姿、死神リュークに怯え慌てる姿、「L」の挑発に簡単に乗ってしまう浅はかな姿、そして「ノート」の力を得て“覚醒”し、歪んだ正義感を振りかざし始める狂気の姿……。『デスノート』という荒唐無稽な世界観の中で、そんな月をリアリティを持って演じられる俳優はなかなかいない。だから今回の新しい夜神月役は、窪田でなくてはならなかったのだ。  実際に窪田は、平凡な大学生が、「デスノート」を手にし、悩みながらも狂気の殺人者に変わっていく姿を見事な説得力で表現していた。最初から「天才」だった原作にはない、ドラマ版ならではの月の魅力がそこには確かにあった。人気漫画が原作のドラマ化だからといって、原作に忠実なだけが正義ではない。そこにいかに新たな魅力を加え、ドラマ化する意義を見いだせるかが重要なのだ。もちろん、この挑戦が成功するとは限らない。それは今後、いかに新たなキャラクター像と原作の魅力を融合させていくかが重要になっていくだろう。  ドラマ版『デスノート』で窪田は、“新世界”の夜神月をつくり出そうとしているのだ。 (文=てれびのスキマ <http://d.hatena.ne.jp/LittleBoy/>) 「テレビ裏ガイド」過去記事はこちらから

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