これが、本当にあのピエール瀧だろうか、と一瞬目を疑ってしまった。いつも薄ら笑いを浮かべ、飄々としている。電気グルーヴとしてもテレビタレントとしても、あるいは俳優としても常に人を食ったような佇まい。それが、瀧のイメージではないだろうか。しかし、ドラマ『64(ロクヨン)』(NHK総合)の瀧は、それとはまったく違う顔を見せている。 まず驚くのは、そんな瀧が「主演」だということだ。これまで『おじいさん先生』(日本テレビ系)でドラマの主演を務めたことはあったが、これはタイトル通り、瀧がおじいさんに扮した半ばコントのようなコメディ。瀧の「人を食った」ようなキャラクターをそのまま生かしたものだった。 今回は、“笑い”の一切ない重厚なサスペンスドラマ。しかもNHKである。ドラマの大半で、瀧が苦悶の表情を浮かべた顔が画面を占めているのだ。そして、その鬼気迫る顔が驚くほどカッコよく、思わず見とれてしまう。 『64』の演出を務めるのは井上剛。音楽は大友良英。『あまちゃん』をはじめ、『その街のこども』『クライマーズ・ハイ』『Live!Love!Sings! 生きて愛して歌うこと』など数多くの作品でタッグを組む名コンビだ。今回も、静かだが強い大友の音楽と、それを効果的に使った井上の演出がドラマの重厚さを際立たせている。そう、『64』は、「重厚」と呼ぶに相応しいドラマである。 物語の主軸となっているのは、タイトルにもなっている通称「ロクヨン」と呼ばれる誘拐事件である。わずか1週間しかなかった「昭和64年」に起きた、少女誘拐事件。身代金も少女の命も奪われ、未解決のまま14年が過ぎ、時効を迎えようとしている。 瀧扮する三上は事件当時、刑事としてこの事件の解決に奔走したが、現在は広報室の広報官という立場になっており、「ロクヨン」の時効を目前に控え行われる警察庁長官の視察の準備を任されている。「ロクヨン」事件を捜査する刑事部と、三上が所属する警務部は、この事件の秘密を握る「幸田メモ」の存在などで対立し、三上はそれぞれの思惑の全貌がつかめないでいた。警察への不信感を抱く遺族との交渉もままならない。そんな中、警察幹部の娘が起こした交通死亡事故の匿名発表をめぐって記者クラブと対立し、視察の取材協力まで拒否されてしまう。さらに私生活では、高校生の娘が口論の末、失踪。次々に振りかかる難題に三上は眉間にしわを寄せ、静かに悩み続けるのだ。 さらに、三上の苦悩は終わらない。時効直前、「ロクヨン」そっくりの新たな誘拐事件が起こるというのだ。「という」と伝聞で書くのは、まだ起こっていないからだ。このドラマは「ロクヨン」事件と、14年後に起こるこの新たな誘拐事件という2つの誘拐事件が“本筋”である。しかし、全5話中、2話が終わった時点で、まだこの事件は起こっていない。昨今のドラマでは、できるだけ早めに本筋を提示するのが主流となっている。そのほうが分かりやすく、視聴者を逃しにくいからだ。だが、本作では丁寧に、丁寧すぎるほどに、その周辺を時間をかけて描いている。その丁寧さの分だけ、今どき珍しい「骨太」なドラマになっている。昭和の最後を舞台にしていることが象徴するように、どこか昭和のドラマを見ているような感覚に陥ってしまう。 それを強調するのが、瀧の「顔」である。プロデューサーも、彼を主演に起用した理由を「昭和の顔にこだわったから」だと語っている。昭和の俳優は、みんな顔が大きかった。その顔力で画面を重厚なものにし、その迫力で視聴者を釘付けにしていた。瀧にも、間違いなくそんな“顔力”がある。骨太で重厚なドラマには、瀧のような強い顔が必要不可欠なのだ。 (文=てれびのスキマ <http://d.hatena.ne.jp/LittleBoy/>) ◆「テレビ裏ガイド」過去記事はこちらからNHK土曜ドラマ『64(ロクヨン)』番組HPより
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こんなピエール瀧、見たことない! NHK骨太ドラマ『64』を支える“顔力”
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