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Channel: 日刊サイゾー
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普通じゃないからこそ、世界はこんなにも美しい! 天才学者の数奇な生涯『イミテーション・ゲーム』

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“コンピューターの父”アラン・チューリングの伝記映画『イミテーション・ゲーム』。戦時中の暗号解読がコンピューター開発に繋がった。
 数式の力を使って、死んだ人間を甦らせたい。ホラー映画の話ではない。アラン・チューリング(1912~1954)は実在した英国人数学者だ。23歳にして数式を解く人間の頭脳の論理を模した仮想上の機械「チューリング・マシン」を考案し、このアイデアは現代に至るコンピューターの礎となっている。ベネディクト・カンバーバッチ主演の『イミテーション・ゲーム エニグマと天才数学者の秘密』はアラン・チューリングの数奇な生涯を追い、彼が人工知能の研究に尋常ならざる情熱を注いだ秘密に迫っている。  『イミテーション・ゲーム』では3つの時間が並行して流れる。ひとつはチューリングの少年時代、もうひとつはマンチェスター大学の教授として過ごした晩年。そしていちばんのハイライトシーンとして描かれるのが、チューリングが英国政府の要請を受けて、ドイツ軍の暗号エニグマの解読に挑む第二次世界大戦中のエピソードである。ドイツ軍が誇るエニグマは、解読は絶対不可能とされていた難解な暗号だった。ケンブリッジ大学の特別研究員だったアラン・チューリング(ベネディクト・カンバーバッチ)はチェスの英国チャンピオンのヒュー・アレグサンダー(マシュー・グード)らと共に、エニグマ解読のための極秘チームに参加することになる。ところが共同作業を嫌うチューリングは、ひとりで暗号解読マシンの製作にのめり込んでいく。無数のローターにコードが血管のように張り巡らされた巨大な暗号解読マシンこそ、世界初となるコンピューターのプロトタイプだった。  チューリングは少年の頃から変わり者で、それゆえに学校ではイジメの標的となっていた。そんなチューリングに優しかったのは1歳年上のスチュワートだった。校内トップの成績を誇るスチュワートと一緒に難しい数式を解き明かす瞬間は、少年時代のチューリングにとって無上の喜びに感じられた。明るい未来が約束されていたスチュワートだったが、無情にも18歳にして病気で亡くなってしまう。唯一の親友を失い、孤独な日々を過ごすチューリングは、みずからが考え出した人工知能の概念を応用したエニグマ解読マシンの開発に生き甲斐を見出す。劇中のチューリングは、このエニグマ解読マシンに「スチュワート」という名前を付ける。チューリングにとっては敵国ドイツ軍の暗号を解くこと以上に、夭折した親友を人工知能という形でこの世に甦らせることのほうが重大だった。だが、生まれたての頭脳である「スチュワート」には、まだエニグマを解読するプログラムが備わっていない。予算と時間ばかり費やすチューリングの研究は失敗かと思われた矢先に、ひとりの幸運の女神が現われる。
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アラン・チューリング(ベネディクト・カンバーバッチ)は暗号解読チームに参加するが、天才ゆえに凡人たちからは奇人変人扱いされ続ける。
 暗号解読チームに新たに加わった女性、ジョーン・クラーク(キーラ・ナイトレイ)はどんな難解なクロスワードパズルでも瞬く間に解いてみせる天才だった。ジョーンは旺盛な知的好奇心に加え、女性ならではの社交性と現実的な処世術も持ち合わせていた。そうでなくては保守的な英国社会では生きていけなかった。チューリングはジョーンの聡明さを敬い、ジョーンは数式の世界をこよなく愛するチューリングの純粋無垢さに惹かれる。ジョーンが取りなす形で、チューリングが作り上げたエニグマ解読マシン「スチュワート」の改良化に、ヒューら他の暗号解読チームのメンバーも協力することになる。やがて暗号解読チームはエニグマ解読の手掛かりをつかみ、ついに「スチュワート」がその暗号文を読み上げる日が訪れる―。エニグマ解読によって、ドイツ軍はUボート作戦の大幅な変更を余儀なくされ、第二次世界大戦は早期終結へと向かう。チューリングは英国を勝利に導いた大殊勲者となるが、エニグマ解読の事実は国家機密扱いとなり、戦後50年間にわたってチューリングの業績は公表されることはなかった。  BBCドラマ『SHERLOCK(シャーロック)』で大人気を博したカンバーバッチの変人ぶりは、もはや名人芸の領域だ。変わり者ゆえの純朴さを感じさせるカンバーバッチに、母性本能をくすぐられる女性ファンはますます増えるだろう。また、カンバーバッチは『イミテーション・ゲーム』の撮影に入る前に、舞台『フランケンシュタイン』でフランケンシュタイン博士と怪物役を日替わりで演じていたというのも興味深い。そして、カンバーバッチとは『つぐない』(07)でも共演しているキーラ・ナイトレイが素晴しい演技を見せる。暗号解読チームの紅一点であるジョーンは、どうしようもない変人のチューリングをあるがままの存在として受け止めてみせる。男女の性愛を越えた大きな愛情で、すっぽりとチューリングを包み込む。孤独な天才を明るく照らす、まさに夜の光り(ナイトレイ)だった。暗号解読チームの解散後、ひとりぼっちで研究を続けるチューリングに対し、ジョーンは最高に温かい言葉を投げ掛ける。 「普通じゃないあなたがいるからこそ、世界はこんなにも美しいのよ」
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ジョーン・クラーク(キーラ・ナイトレイ)はチューリングの数少ない理解者だった。チューリングと一般社会との橋渡し役を務める。
 41歳にして、アラン・チューリングは非業の死を遂げることになるが、彼が生み出した概念がベースとなってコンピューターは実用化されていくことになる。チューリングはこの世から姿を消したが、それは肉体的な死であって、彼の頭脳は今も生きている。数式の世界で、親友のスチュワートと共に難解な問題を解くことに喜びを見出しているのではないだろうか。 (文=長野辰次)
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『イミテーション・ゲーム エニグマと天才数学者の秘密』 監督/モルテン・ティルドゥム 脚本/グレアム・ムーア 出演/ベネディクト・カンバーバッチ、キーラ・ナイトレイ、マシュー・グード、ロリー・キニア、アレン・リーチ、チャールズ・ダンス、マーク・ストロング 配給/ギャガ 3月13日(金)よりTOHOシネマズみゆき座ほか全国ロードショー (c)2014 BBP IMTATION,LLC http://imitationgame.gaga.ne.jp

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