「私たちは共犯者ね」と、カリスマ作家・遠野リサ(中谷美紀)はゴーストライターの川原由樹(水川あさみ)にささやく。 「望んでやっているわけではありません」 この時はまだ「遠野リサの代わりはいないけど、川原由樹の代わりはいくらでもいる」という立場だ。 「なんで(電話に)出ないの? 締め切りは明日よ」 次第に焦り始めるリサに、由樹が叫ぶ。 「だったら、先生が自分で書けばいいじゃないですか!」 「私たちは嘘をつき続けるしかないの」 リサは、なだめるようにささやく。 「いつまで世間を騙し続けるんですか?」 「いくら欲しいの?」 と訊くリサを睨みつけて、由樹は即答する。 「10億!」 そして、ついに由樹に土下座するリサ。 「お願いします……原稿を、ください」 これはドラマ『ゴーストライター』(フジテレビ系)の第4話予告である。わずか30秒のこの映像で、2人の立場が天から地へ大逆転するさまが克明に描かれている。 『ゴーストライター』はその名の通り、カリスマ的人気を誇る作家・遠野リサのゴーストライターを、若き才能あふれる作家志望のアシスタント・川原由樹が務めていくという物語である。このご時世にこのタイトル、明らかに佐村河内守氏と新垣隆氏の騒動に便乗した安易な企画じゃないか、と思わせる。しかも、ネット上の公式プロモーション企画では「あの新垣隆氏が語る『ゴーストライター』」などという動画まで配信されている。駄作のにおいがする。そう思わせる要素はいくつもあった。 だが、その先入観は第1話ですぐに覆された。 ドラマは土砂降りの中、2人が対峙するシーンから始まる。由樹を平手打ちするリサ。それに対し「私がいないと、なんにもできないくせに」と不敵に笑う由樹。つかみかかるリサ。「遠野リサはすべてを失った」と、リサのモノローグが挿入される。もみ合いながら、由樹に馬乗りになるリサ。「あなたに何が分かるのよ!」と激高し、由樹の顔面を叩き続ける。そして第1話の最後、同じシーンに戻る。今度は由樹がリサに馬乗りになる。そして吐き捨てるように言う。 「今日で遠野リサ先生のゴーストライターを辞めさせていただきます」 リサは由樹を見上げながら言う。「クビよ」 脚本は『僕の生きる道』、『僕と彼女と彼女の生きる道』『僕の歩く道』の「僕シリーズ3部作」などで知られる橋部敦子。こうしたセンセーショナルなシーンと併せて、それに至るプロセスを周到に描いていく。 発端は、そのシーンの2年あまり前だった。天才作家と呼ばれ、次々とベストセラーを生み出していたリサ。だが、認知症の母(江波杏子)との確執や、反抗期の息子(高杉真宙)の問題行動などで精神をすり減らし、過去の作品を超えられないというジレンマもあって、極度のスランプに陥っていた。そんな時にアシスタントとしてやってきたのが、作家志望の由樹だった。彼女にリサーチをやらせると、小説が書きやすいように資料をそろえてくる。その仕事ぶりに信頼を寄せていくリサ。やがて由樹はリサに認められたい一心で、原稿の案を書いてしまう。これは、秘書の美鈴(キムラ緑子)に咎められるが、リサは原稿案こそ採用しなかったものの、由樹を「その野心が好きよ」と、さらに認めていく。その一方でリサは、ますます書けなくなっていく。 最初はプロットだけだった。由樹に骨組みを書かせ、それにリサが肉付けする。そこまではまだギリギリ、アシスタントと作家の関係性だった。だが、次第に追い詰められ、そのすべてを由樹が書くようになっていってしまう。天才作家がゴーストライターと共犯関係になっていく過程、カリスマが堕ちていく姿が丁寧かつ飽きさせない展開の早さで描かれていくのだ。 目を見張るのは、リサ演じる中谷美紀の「顔」である。彼女のその「顔」が、物語に説得力を与えている。取材やトークショーなど対外的な“表”のシーンでは、カリスマ然とした美しい顔を見せる一方で、裏側のシーンでは苦悩し、深いシワが刻まれた顔をしている。そのシワが、業の深さをありありと見せつけるのだ。2つの「顔」のギャップに身震いしてしまう。醜くも美しい。 いや、中谷だけではない。彼女の母を演じる江波も、秘書のキムラも、そしてもちろんゴーストライターの水川も、このドラマに出てくる女性陣のほとんどは、業の深い顔をして画面に現れるのだ。 綿密な脚本、女優たちの「顔」を浮かび上がらせる演出、怒涛のような展開は、見る者を釘付けにする。 「私は遠野リサさんのゴーストライターです」 早くも第5話の、リサ原作の映画製作発表の場で告白した由樹。17日に放送する第6話の予告では、リサから由樹へ名誉毀損の訴状が送られたシーンが描かれている。 そして裁判が開かれる。まさに怒涛の展開だ。 「法は、嘘つきを裁けるのか」 というコピーが躍る中、法廷に入ってきた遠野リサ。 醜い真実と、美しいウソが交錯していくようだ。 「何事も隠さず、偽りを述べないことを誓います」 困惑し歪んだ顔の由樹を前に、リサは凛とした佇まいでそう宣誓する。その「顔」は、ゾクゾクするほど美しいのだ。 (文=てれびのスキマ <http://d.hatena.ne.jp/LittleBoy/>) ◆「テレビ裏ガイド」過去記事はこちらから『ゴーストライター』フジテレビ
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ゾクゾクするほど美しい……業の深さが浮き上がる『ゴーストライター』中谷美紀の2つの「顔」
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