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Channel: 日刊サイゾー
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発見! SEX以外にも快感を味わう方法がある!? 歓びと痛みが永久ループするR18映画『メビウス』

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母が息子の“男根”を切り取るという衝撃的なシーンから始まる『メビウス』。母と女の2役を演じ分けた主演女優イ・ウヌの怪演が強烈だ。
 旧約聖書によると、人類最初の男(アダム)の肋骨から人類最初の女(イヴ)は作られたそうだ。旧約聖書の内容に従えば、人類の歴史はもともと何かが欠けている状態から始まっているらしい。男は今でも自分が失ったものを探すために、夜の街をうろうろほっつき歩きたがるのだろう。前作『嘆きのピエタ』(12)でカンヌ映画祭金獅子賞を受賞したキム・ギドク監督の最新作『メビウス』は、2人の男と1人の女がイス取りゲームさながら、足りない何かを奪い合う物語だ。振り切った描写を好むギドク監督は、その何かを肋骨ではなく、男根として描いている。  『メビウス』は父(チョ・ジェヒョン)、母(イ・ウヌ)、息子(ソ・ヨンジュ)の3人が暮らす一家が舞台。家族関係は冷えきっており、父は近所でコンビニを営む女と不倫している。嫉妬の炎に燃える母は、父の男根を切断しようとする。ところが父の反撃に遭い、その代案として父がもっと苦しむであろう、息子の男根を切り取ることを思いつく。まさか母に寝込みを襲われるとは夢にも思わず、眠っていた息子は新品状態の男根を母に奪い取られてしまう。血まみれの母は息子の男根を呑み込み、そのまま家を出ていった。あまりの出来事に途方に暮れる父と息子。父は息子への罪悪感から、コンビニの女と別れ、病院で自分の男根も切除してもらう。  コンビニの女が、街の不良グループに集団レイプされる事件が起きた。検挙された不良グループの中に、なぜか息子が紛れ込んでいた。父は息子が無罪であることを証明するため、刑事や不良たちが見ている前で息子のパンツを脱がす。男根を失った息子は学校でイジメられ、それを嫌って不良グループとつるむようになっていたのだ。母に股間を傷つけられただけでなく、父にプライドまでズタズタにされた息子は、警察署内で暴れ回る。結局、息子は暴行罪で収監されてしまった。
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父(チョ・ジェヒョン)と息子(ソ・ヨンジュ)は、1本の男根を共有し合う仲に。映画史上かつてない、濃厚な父子関係が描かれる。
 男根を失い、性的な快感を知ることができない絶望の中にいる息子を、どうすれば救い出すことができるか。インターネットを検索し続けた父は、あるサイトに辿り着く。そのサイトには性器以外の部位で快感が得られる方法が記載されていた。肌を石で擦り、皮膚が破けてもさらに擦り続ける。猛烈な痛みに襲われるが、その痛みの直後に形容しがたい快感が湧き上がってくるという。早速、自分の身体で試してみた父は、あまりの痛さと気持ち良さにびっくり。息子がいる収監先まで嬉々として面会に出掛け、この快感メソッドをこっそり息子に伝授する。最初はバカにしていた息子だが、独房で他にやることがない。『あしたのジョー』の矢吹丈ばりに、このメソッドにのめり込む。初めて知る快感の世界が、息子を虜にする。激しい痛みと歓びと同時に、息子は自分がこの世界で生きていることをリアルに実感できた。  こうして父と息子は新しい快感メソッドを通じて、親子の関係を修復していく。息子が出所し、男2人での平和な生活が始まった。息子を救った快感メソッドだが、やりすぎると全身が生傷だらけになるという難点がある。父はインターネットで男根の移植手術が可能なことを知り、病院に預けていた自分の男根を息子に譲ることを決意する。そんな折、あの母が帰ってきた。2人の男と1人の女は残された1本の男根をめぐって、再び修羅場を演じることになる―。  壊れた回転木馬のように、永遠に続くループ地獄を生み出したキム・ギドク監督は、作品を重ねるごとに作風がますます研ぎ澄まされたものになっている。主なキャストは3人。父役に『悪い男』(01)などキム・ギドク初期作品に主演していたチョ・ジェヒョン。息子役は撮影時15歳だったソ・ヨンジュ。2015年1月公開の廣木隆一監督作『さよなら歌舞伎町』でも見事な脱ぎっぷりを見せているイ・ウヌが、母と女の2役を巧みに演じ分けた。撮影期間はわずか5日間という早撮り。台詞はいっさいなく、男根を切り取られた際のうめき声や快感にのたうち回る歓びの声がキャストの口から漏れてくるだけ。まるで、まだ地上に言語が溢れ出す前の、神話の世界を見ているかのような気分になってくる。
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息子役のソ・ヨンジュが未成年であるため、息子絡みの性的描写シーンは大幅カットに。韓国では上映不可だったのが、ギリギリOKになった。
 映画の世界で男と女が新しい家庭を築き始める物語は、一方もしくは双方が親の愛情を知らずに育ったケースが圧倒的に多い。家族愛に飢えた者たちは、試行錯誤を繰り返しながら家庭という新しい世界を創造していく。男と女はお互いの欠けている部分を補おうとすることで、そこにエネルギーが生じ、家族という名の永久機関が発動する。満たされている平穏な家族よりも、どこか欠陥を抱えた家族のほうが、アダムとイヴの末裔たちが暮らすこの世界ではより自然な状態なのかもしれない。  愛情だけでは家族はバカになる。愛情の裏返しである怒りや哀しみを織り交ぜることで、家族の結びつきはより強固なものになっていく。『メビウス』は激しい痛みの中に安らぎを見出すことができる、荘厳なるホームドラマだ。 (文=長野辰次)
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『メビウス』 製作・監督・脚本・撮影・編集/キム・ギドク 出演/チョ・ジェヒョン、ソ・ヨンジュ、イ・ウヌ 配給/武蔵野エンタテインメント R18+ 12月6日(土)より新宿シネマカリテほか全国公開  (c)2013 KIM Ki-duk Film All Rights Reserved. http://moebius-movie.jp

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