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吉祥寺から消えた映画館から生まれた『PARKS』過ぎ去った記憶と現代とを音楽で結ぶという試み

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吉祥寺から消えた映画館から生まれた『PARKS』過ぎ去った記憶と現代とを音楽で結ぶという試みの画像1
橋本愛主演作『PARKS パークス』。井の頭公園の緑に囲まれ、橋本は軽やかな歌声を披露する。
 吉祥寺は地方出身者にとっては居心地のよい街だ。同じJR中央線にある高円寺ほどテンションが高すぎず、国分寺や国立ほどハイソでもない。古い店と新しい店がほどよくブレンドされて並んでいる。そんな吉祥寺という街のランドマーク的存在だった映画館バウスシアターが閉館したのが2014年6月。最終プログラムとなった音楽映画『ラスト・ワルツ』(78)の終演後のあいさつに立ったオーナーの本田拓夫さんは「物語には続きがある」という言葉を残したが、その言葉が実現化した。ハードウェアとしての映画館は消えてしまったけれど、代わりに生まれてきたソフトウェアが映画『PARKS パークス』。バウスシアターにたびたび通っていた橋本愛主演作として、「井の頭公園」開園100周年にあたる17年に完成した。  バウスシアターの残務処理を終えた本田さんが「吉祥寺と井の頭公園の映画をつくりたい」と電話した先は、“爆音映画祭”の主宰者として知られる映画評論家の樋口泰人氏。“爆音映画祭”はライブハウス機能を併せ持つバウスシアターで歴史を重ねてきた。樋口氏がゼネラルプロデューサーとなり、染谷将太主演作『嘘つきみーくんと壊れたまーちゃん』(11)でエッジの効いた演出を見せた瀬田なつき監督、『寄生獣』(14)、『寄生獣 完結編』(15)で橋本愛と息の合った芝居を見せた染谷将太、小学生のときに吉祥寺でスカウトされたことがきっかけで芸能界入りした永野芽郁という新鮮味のある顔ぶれが集まった。  主人公の純(橋本愛)はかつて子役タレントとして活躍したが、今は何者にもなれずにいるフツーの女子大生だ。井の頭公園脇のアパートに住んでいる純は同棲するはずだった彼と別れてしまった上に、大学からは留年を知らせる通知が届き、茫然自失状態。ゼミの担当教授(佐野史郎)に頭を下げて、ゼミの課題を大急ぎで提出することになるが、そんなとき純の前に現われたのが不思議な女の子・ハル(永野芽郁)だった。ハルは亡くなった父親(森岡龍)の記憶を辿り、父親がかつて交際していた元恋人・佐知子(石橋静河)を探していた。父親は佐知子から届いた手紙を残しており、そこに記されていた住所が純のいる部屋だった。
吉祥寺から消えた映画館から生まれた『PARKS』過ぎ去った記憶と現代とを音楽で結ぶという試みの画像2
純(橋本愛)の部屋に集まったトキオ(染谷将太)たちは、残された古い録音テープを再生することに。
 ゼミの課題になりそうな予感を感じた純は、ハルと一緒に佐知子の居場所を探し始める。やがて公園近くに暮らす佐知子の孫・トキオ(染谷将太)と2人は出逢う。佐知子はすでに亡くなっていたが、佐知子が持っていた古いオープンリールの録音テープが見つかったとトキオが知らせてきた。息を呑んでテープを再生すると、そこから流れてきたのはハルの父と佐知子が歌うオリジナルソングだった。劣化していたテープは途中で切れてしまうが、歌の続きが気になって仕方がない。純たちは自分たちの手で曲を完成させることで、かつての恋人たちの想いと現代とを繋ぎ合わせる作業に夢中になっていく。  NHK朝ドラ『あまちゃん』(13)のアイドルデュオ“潮騒のメモリーズ”で大人気を博した橋本愛だが、10代の頃の物憂げな美少女から大人の女性へと変わりつつある彼女の等身大の姿が『PARKS』ではそのまま映し出される。緑の多い井の頭公園でのロケ撮影で、いつになく明るい表情を見せ、ギター演奏&歌声を披露している。演技力で定評のある染谷将太は今回は三枚目的な役どころ。純とハルと美女2人に挟まれて有頂天になるお調子者のトキオ役が楽しそうだ。園子温監督の『TOKYO TRIBE』(14)で挑戦したラップの腕前も久しぶりに見せてくれる。橋本愛も染谷将太も、古くて新しいハモニカ横丁の景観にとてもよく馴染んでいる。
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夜更けのサンロード商店街を駆け抜けていく純、トキオ、ハル。このアーケード街には、かつてバウスシアターがあった。
 そして、こちらの想像以上に『PARKS』に初々しい躍動感を与えているのが、橋本と染谷に絡む永野芽郁。テレビで流れるUQモバイルのCMでは消されてしまっているが、自然光で撮影された本作では永野のほっぺの上に小さな小さな“インディアンえくぼ”が浮かび上がることが分かる。小動物のようにコロコロと変わる永野の表情の豊かさに目を奪われてしまう(ちなみに5月20日公開の『ピーチガール』では悪女役を演じ、主演俳優たちを喰っている)。本作で永野が演じるハルは、純の部屋に居候するかなりの不思議ちゃんだ。春風のようにふわふわしたハルは、父の思い出の曲を再現しようとするうちに、井の頭公園をさまよい、若い頃の父や佐知子たちとばったり遭遇してしまう。意識が時空を越えてシンクロしてしまったらしい。タイムマシンなしでうっかり時間旅行してしまうハルの天然ぶりに見蕩れているうちに、物語は瞬く間にクライマックスを迎える。  50年前の恋人たちの曲を蘇らせようとしていることが周囲に知れ渡り、吉祥寺で開かれる人気音楽フェスに出場し、その曲を発表することになる純たち。音楽業界で食べていきたいトキオはやたらと張り切っているが、果たしてフェスまでに曲は完成するのか、純たちの初ステージは成功するのか? バウスシアターという形ある映画館は吉祥寺から消えてしまったけれど、代わりに過去と現代を結ぶ曲と映画が誕生した。映画を見終わった後、橋本愛が歌う曲を思わず口ずさみたくなる。『PARKS』はそんな軽快なエンディングが待っている。 (文=長野辰次)
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『PARKS パークス』 企画/本田拓也 ゼネラルプロデューサー/樋口泰人 音楽監修/トクマルシューゴ 監督・脚本・編集/瀬田なつき 出演/橋本愛、永野芽郁、染谷将太、石橋静河、森岡龍、佐野史郎、柾木玲弥、長尾寧音、岡部尚、米本来輝、黒田大輔、嶺豪一、原扶貴子、斉藤陽一郎、麻田浩、谷口雄、池上加奈恵、吉木諒祐、井手健介、澤部渡(スカート)、北里彰久(Alfred Beach Sandal)、シャムキャッツ、高田漣 配給/boid 4月22日(土)よりテアトル新宿、29日(土)より吉祥寺オデヲンほか全国順次公開  (c)2017本田プロモーションBAUS http://www.parks100.jp

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