韓国珍スポの旅を続けて悩むのが、これは果たして珍スポなのかどうかということだ。 廃墟もミステリースポットも軍事施設も大好きだが、それは珍スポではない。訪れる人を珍妙な気分にさせる、ほほえましくもストレンジな何かがあってこそ「珍スポット」と言えるわけで。 釜山(プサン)は「峨嵋洞(アミドン)碑石文化村」を訪れた。日本統治時代に日本人の共同墓地があった山の斜面に、1950年の朝鮮戦争で家を失った人々が居を構えた集落であり、なんと日本の墓石が建材としてあちこちに使われているという。 それだけ聞くとダークツーリズムスポットのようだが、果たしてどうだろう? 釜山駅前から市内バスに乗り20分で下車、下町風情の坂道をぐいぐい登ってたどり着いたそこには、ほほえましくもストレンジな光景が広がっていた。右の家、どう見てもfeaturing 墓
予想以上の軽やかさ……こりゃ、珍スポだ。 地図をデジカメに収め、墓石を探しながら集落を歩く。斜面の敷地に自由自在に建てられた小さな家々の間、カラフルな壁画があちこちに描かれた、人ひとり通るのもやっとの狭い通路を進んでいくと……あった!! これは間違いなく、日本の墓石だ。石垣の一部として、上下左右関係なく、テトリスのように積まれている。墓石がある位置を示した町内マップ墓石のキャラクター「ソギ」(日本語に訳せば「石クン」というところか)
集落は30分ほどで一周できそうな大きさであり、地図を頼りに行ったり来たりする。階段や家の基礎、ガスボンベの下の土台など、あらゆる場所に墓石を発見。 これ、何も情報がないところにいきなり出てきたら本気で怖いと思うが、町内に設置された地図や説明、そして壁画のおかげでネガティブな印象はあまりない。行政も歴史の保存に積極的だという。「丸に横木瓜」って、うちの家紋と同じだ……まさか、リアルご先祖様がここに?
そうこうしているうちに坂を登りきり、集落を見下ろす丘の上に到着。そこは展望台となっており、ポップなキャラクターが私を出迎えてくれた。昔の暮らしをイメージしたキャラクターなのだろうが、「カンナムスタイル」っぽいポーズを取っているあたり、はっきりいってめんどくさい。 石クンだけにしておけばいいのに……。この蛇足感に、珍スポとしての本領を見た気がした。浮かれた壁画で容赦なく飾られた、迷路のような通路を行く墓石である。日本人としては何ともコメントしづらいビジュアルだが、近くのお寺では毎年、ここに眠っていた日本人のための慰霊祭を行っているとかガスボンベの下に墓石の一部カタカナのお名前が書いてある! 歩いているうちに目が肥えてきて、地図には紹介されていない場所にも墓石を見つけられるように家々の間の謎の敷地に、町民のための運動器具が設置されていた。生と死のコントラストに頭がクラクラする
なお、峨嵋洞碑石文化村は今のところ、観光地のような雰囲気はまったくなく、歩いていても地域住民しか見かけない。しかし、ここから徒歩5分ほどのところに位置する、町全体が壁画でカラフルに装飾された、墓石がないだけで似たようなコンセプトの「甘川(カンジョン)文化村」は、原宿のようにごったがえしており、何かのきっかけで世界の観光客が峨嵋洞碑石文化村に押し寄せる可能性もなくはない。墓石と共存する人々の素朴な生活に触れたいのなら、早めに訪れたほうがよいだろう。 (文・写真=清水2000) ●峨嵋洞碑石文化村 住所 釜山西区峨嵋路49とはいえ、ここから一望できる釜山市内の景色は素晴らしい。墓地がここにあった理由もうなずける