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「速いだけでなく、強いチームを!」鬼監督・大八木弘明がつくり出した駒大陸上部の黄金時代

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『タスキを繋げ!―大八木弘明-駒大駅伝を作り上げた男』(晋遊舎)
アスリートの自伝・評伝から読み解く、本物の男の生き方――。  今年も箱根駅伝の優勝候補に名乗りを上げている駒澤大学。10月の出雲駅伝、11月の全日本大学駅伝で2連勝した駒大にとって、今回の箱根は「学生駅伝3冠」という大記録をかけた戦いだ。この駒大陸上部を率いるのが、選手たちから「鬼」と恐れられ、同時に慕われている名将・大八木弘明。1996年に監督に就任すると、それまで低迷にあえいでいた駒大陸上部を見事強豪チームに仕立て上げ、02~05年の4連覇をはじめ、箱根駅伝で実に6回の優勝を飾っている。  いったい、大八木監督は、どのようにして、チームを最強の駅伝軍団に仕立て上げてきたのだろうか? ノンフィクションライター・生江有二氏による大八木監督のドキュメント『タスキを繋げ!』(晋遊舎)から、その秘密を見てみよう。  学生時代は、駒大の選手として箱根を走っていた大八木。1年生の時には山登りの5区を、そして2、3年生の時には花の2区を任されていた。しかし、4年生の時には箱根駅伝に出場していない。ケガや体調不良ではなく、年齢制限に引っかかったためだ。  高校卒業後、大八木は家庭の事情によって大学進学をあきらめざるを得なかった。印刷会社に就職し、実業団選手として経験を積むも、高校生の頃に抱いた「箱根を走りたい」という夢は捨てきれない。川崎市役所に勤めながら、駒澤大学の夜間学部に進学したのは25歳の時だった。  遅いデビューだったものの、周囲の学生よりも身体が出来上がっていたことが幸いし、念願の箱根で区間賞を2回獲得する活躍を見せる。また、この当時から後輩たちの指導を行っており、すでに監督としての才能を発揮していた。その後、ヤクルトで実業団選手兼コーチとして活躍していた大八木が、駒澤大学のグラウンドに戻ったのは96年、38歳の時だった。  だが、彼の前に現れたのは、やる気に満ちあふれるアスリートたちの姿ではなかった。合宿所にはゴミが散らばり、あたかも「山賊のすみか」のような様相を呈している。スロット台や麻雀卓だけでなく、長距離選手にとって天敵ともいえるタバコが灰皿にうず高く積まれており、朝練も不定期……。「毎日のように罵声を飛ばして生活改善からはじめなければならなかった」と、大八木は当時を振り返る。  京子夫人の協力を得て、選手たちにバランスのよい食事を摂らせ、生活習慣を改善。規律を取り戻し、練習に打ち込める環境を整えていくと、だんだんと選手たちの顔色も変わっていく。1年目の箱根こそ総合12位という成績に終わったものの、2年目には早くも復路優勝(総合6位)という快挙を成し遂げた。  ある時は、視聴者から「監督がうるさい」とクレームがくるほど、大八木は声が枯れるまで選手たちに檄を飛ばす。その熱量に促され、選手たちも自らの体力の限界を超えた走りをすることができるのだ。大八木の下でコーチを務める高橋正二は、その育成方法についてこう証言する。 「(大八木監督は)練習の中でつかみ取る気迫を鍛錬することが第一義であると語っているように思います。集団走で離れたら、離れっぱなしで終わらせるな、必ず追いつけと、指示を出す。そうした我慢強さ、挑戦心を選手に持てと言うのですね」  大八木は、地味で粘り強く走る「泥臭い走り」が好きだと明言している。彼の理想は「速いだけでなく、強いチームを!」だ。駅伝はゴールまでの速さを競う競技であると同時に、チーム対チーム、人間対人間の勝負でもある。選手たちの「気迫」や「我慢強さ」を鍛え上げることで、駅伝という「競技」で勝てるチームを育て上げているのだ。  しかし、大学の運動部である以上、選手たちは純粋なアスリートではない。駅伝の指導者でありながら教育者でもある大八木は、08年の箱根駅伝に優勝した喜びの中、自身の仕事をこう語った。 「心から感動したことが、走ることをやめたのちも、常に生きていく支えになっていく。その瞬間を選手ひとりひとりに知ってもらいたい。それが私の願いだし、鬼になる理由です。1位になった栄誉とか、大学の名誉とかいうのは一瞬ですが、全員で笑い合って感動したという思い出は一生忘れません」  この正月も、箱根の山に鬼監督・大八木の声がこだまする。そして、その声に力をもらった駒大選手たちは、過酷な箱根への道を走り抜けていくだろう。レース中に聞こえる大八木の怒号は、選手にとって、その後の人生を支える希望としても響いてゆくだろう。 (文=萩原雄太[かもめマシーン])

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