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Channel: 日刊サイゾー
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全員加害者?『エイジハラスメント』で五寸釘をブチ込まれるのは何か

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age0903
『エイジハラスメント』(テレビ朝日)より
「部下の価値が全然理解できてないんじゃないですか? ブタに真珠の価値がわからないのと一緒です」 「あなた、誰に口を利いているの?」 「ブタ!」  毎回、会社でさまざまなハラスメントを目の当たりにする新入社員・英美里(武井咲)が「てめえ、五寸釘ブチ込むぞ」とつぶやきながらたんかを切るというのが、『エイジハラスメント』(テレビ朝日系)の“お約束”的な流れだ。痛快である。  だが、ただ「痛快」だけで終わらないのが、内館牧子脚本の真骨頂だ。例えば、熱心な上司がその熱心さゆえに誤解され、人事異動で他部署に“飛ばされる”と、やはり英美里は我慢できず、常務(風間杜夫)に相談へ行く。 「小森課長の左遷、あれは誤解の上で成り立っています。真実はまったく違います。今からどうにかならないでしょうか?」  この常務は、 “裏”の顔(女性を心底小バカにしている)はともかく、“表”では女性や若い人材を積極的に登用すべき、という方針の持ち主。英美里の必死の訴えを聞き入れ、大団円を迎えてもおかしくなかった。だが、このドラマは一筋縄ではいかない。 「企画管理部に行くのが『左遷』って誰が決めたの? 何を根拠に左遷って言ってるの? おこがましいよ、君! 組織というところは、経営方針も何もかも重層的に絡み合って決まる。左遷だの真実など、乙女の感傷で物を言われては困る!」  ぐうの音も出ない正論で英美里を攻め立て、さらにダメ押しをする。 「若い人の言うことは、たいてい浅くて、軽くて、くだらない。だが、それを必死に訴える姿勢は正しい。しかし、若いからなんでも甘く見てもらえると思うなよ。頭、悪すぎるぞ!」  『エイジハラスメント』は、内館が『汚れた舌』(TBS系)以来、約10年ぶりに手がけた連続ドラマである。内館といえば、強く生きる女性を描かせたら右に出るものはいない脚本家。彼女が満を持して描くのは、ハラスメント渦巻く男社会の中でたくましく生きる女性。まさに、内館本人と重なる。しかも、舞台は大企業の総務部。彼女は、脚本家になる前、同じように会社の総務部で働いていたというから、総務が他部署から「なんでも屋」扱いされている上、「楽でいい」などと蔑視される描写に実感がこもっている。  セクシャルハラスメント、パワーハラスメント、モラスハラスメント、マタニティハラスメント……さまざまなハラスメントを描いているが、最もこのドラマで描かれているのが、タイトル通り、年齢差別「エイジハラスメント」だ。 「若くて美しい」というだけで、自分が望む、望まないにかかわらず、男性社員にチヤホヤされ優遇される。だが、一方でまともな責任のある仕事に就かせてもらえない。また、「若くて美しい」という範囲から外れた同僚の女性たちからの嫉妬で、理不尽な扱いやイジメを受けてしまう。それが、英美里が受けているエイジハラスメントだ。  逆に「年齢を重ねている」というだけで、不当な扱いを受けるのもまたエイジハラスメントだ。男は女を傷つけ、傷つけられた女は、男にチヤホヤされる女を傷つける――。不毛なサイクルが繰り返されていく。  軽口でハラスメント発言を繰り返し、ついには「女子社員はうんと若いか、できるブスがいい」と口を滑らせる「エイハラ、パワハラ、モラハラ、オールハラのデパート」の次長・浅野(吹越満)に対し、いつものように英美里がたんかを切る。 「私たちだって、男子社員は『うんとイケメンか、できるハゲがいい』ですよ!」  見かねて「もう気が済んだでしょ」と諭す女上司に、英美里はさらに続ける。 「気が済む、済まないの問題じゃありません。ハラスメントを嫌がらせという程度で捉えているから、そういう言葉がでてくるんです。ハラスメントは傷害事件です! 心とプライドを傷つける傷害事件です。ハラスメントをやる人は犯罪者です!」  そんな英美里に、ベテラン社員・桂子(麻生祐未)が口を挟む。 「相変わらず偉そうねえ、親分。そうよ、あなたこそエイジハラスメントの親分、犯罪者よ」  桂子は、英美里が「若さ」ゆえに無自覚に周りの女性を傷つけてきたことを白日のもとに晒した上で、五寸釘をブチ込むように断罪する。 「あなたに、ハラスメントで人を糾弾する資格はない!」 「ハラスメント」とは、それまで無意識的、無自覚的に行われ、「ないこと」とされてきた精神的な形なき暴力に名前を与えたものだ。意識的、無意識的にかかわらず、ハラスメントの被害者にも加害者にもなりうる。それどころか、全員が被害者であり、加害者でもある。女の敵は女であり、弱者の敵は弱者だ。だからこそ、たちが悪い。  加害者を糾弾するのは、別の加害者であり、糾弾されるのは別の被害者だったりする。残るのは、ただ被害者意識だけ……。五寸釘をブチ込みたくても、その対象は曖昧模糊としている。  そんな複雑怪奇な現実を、『エイジハラスメント』は「痛快」な勧善懲悪的様式を装いながら、一筋縄でいかせないことで浮かび上がらせているのだ。 (文=てれびのスキマ <http://d.hatena.ne.jp/LittleBoy/>) 「テレビ裏ガイド」過去記事はこちらから

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