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人気俳優もスタッフもみんなリストラの対象に!? 映画界の今後を大胆予測『コングレス未来学会議』

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ハリウッド女優のロビン(ロビン・ライト)は全身をスキャンして、永遠に年をとらないCGキャラクター女優としての道を選ぶことに。
 デジタル化が進み、映画産業の光景は大きく変わった。フィルム上映にこだわった街の映画館は次々と姿を消し、新しくできた巨大シネマコンプレックスに人々は吸い込まれていく。小さな映写室から上映を見守ってきた映写技師たちの多くも仕事を失った。フィルム撮影からデジタル撮影に変わったことで、製作現場でも大勢のスタッフが変革の波に呑まれた。当然ながら、俳優たちも無傷ではいられない。CGキャラクターが大活躍するジェームズ・キャメロン監督のSF大作『アバター』(09)を観た人は、「生身の俳優じゃなくても充分面白いじゃないか」と感じたのではないか。モーションキャプチャーが普及すれば、イケメン俳優の価値はなくなってしまう。「Hulu」のCMのように故人をCGで蘇らせることも可能だ。これから映画産業はどうなっていくのか? そして、映画という娯楽を享受してきた我々の生活もどう変化していくのか? アリ・フォルマン監督の『コングレス未来学会議』は、映画産業の20年後、40年後を大胆に予測してみせる。  イスラエル出身のアル・フォルマン監督は前作『戦場でワルツを』(08)で自分が軍役時代に遭遇したレバノン内戦の悲惨な記憶をアニメーションとして再現してみせた。『惑星ソラリス』(72)の原作者として有名な作家スタニスクフ・レムが1971年に発表したSF小説『泰平ヨンの未来学会議』で描かれた未来社会を、フォルマン監督は再びアニメーションとして映像化してみせる。『戦場でワルツを』はモノトーンな色調のアニメーションだったが、本作では今敏監督の『パプリカ』(06)を思わせる極彩色の夢の未来社会を登場させる。フライシャー兄弟の『ベティ・ブープ』を彷彿させる懐かしくかわいらしい絵柄のアニメーションだが、描かれる世界は強烈なトリップ感をもたらす過激なものになっている。  『戦場でワルツを』がフォルマン監督の自伝だったように、本作は主演女優ロビン・ライトのセミドキュメンタリーとして物語が始まる。ロビン・ライトはロブ・ライナー監督の『プリンセス・ブライド・ストーリー』(87)で映画デビューを果たし、『フォレスト・ガンプ/一期一会』(94)の怒濤の生涯を送るヒロイン・ジェニー役で注目を集めたハリウッド女優。テキサス生まれらしい芯の強さを感じさせる彼女は大女優になることを期待されていたが、ハリウッドの問題児ショーン・ペンと交際、結婚、そして出産し、女優としての活動はペースダウンしていく。その後ショーン・ペンとは離婚するが、ドキュメンタリー映画『デブラ・ウィンガーを探して』(02)でロザンナ・アークエットが「40歳を過ぎた女優には、それまでのキャリアに見合った仕事は来なくなる」と主張したように、もう若くはないロビン・ライトも女優としてのターニングポイントに立たされる。と、ここまでがロビン・ライトの実話。そんなロビン(ロビン・ライト)は長年付き添ってきたマネージャーのアル(ハーヴェイ・カイテル)からリストラを勧告されることに。
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息子の主治医に『トゥルーマン・ショー』(98)のポール・ジアマッティ、マネージャーにハーヴェイ・カイテルら実力派俳優が起用されている。
 男選びに失敗し、わがままで撮影をドタキャンした過去を今さらマネージャーのアルから蒸し返されるライト。でも、子どもたちの将来を考えたら、まだまだお金は必要だし、人生経験を積んだ分、もっといい演技ができる自信がある。40歳を過ぎた今でも、充分若々しく映るはずだ。焦るロビンに、ハリウッドから最後の契約が舞い込む。それは、これまで以上に高額の契約料だった。ただし、これは1本の映画への出演料ではなく、ロビンの全身をスキャンしてCGキャラクター化するという内容のものだった。肖像権を丸々映画会社に売り渡すことになる。『マトリックス』(99)のキアヌ・リーブスはすでに契約済みらしい。映画会社のCEOであるジェフ(ダニー・ヒューストン)は躊躇するロビンをこう諭す。「これからは嫌な男優とのキスシーンやベッドシーンにもう悩まなくていい。余った時間は自分が好きなように過ごせばいいんだ」と。息子アーロン(コディ・スミット=マクフィー)が難病を患っていることから、ロビンは渋々ながらこの契約書にサインする。息子の心配もあったが、いつまでも年をとらない若々しい自分の姿がスクリーンで輝き続けるという誘惑に、女優であり、ひとりの女であるロビンは抗えなかったのだ。  全身をスキャンしてもらうためにロビンが撮影スタジオを訪ねると、かつての映画業界ならではの賑やかさはすっかり消えていた。静寂さがスタジオを支配し、人の気配がまるでしない。これからの映画製作に必要なのはコンピューターを操作するオペレーターだけで、個性的な才能や職人的技術を誇ったスタッフのほとんどはお払い箱になっていた。俳優たちもこのCGキャラクター化の波に乗りそびれれば、淘汰されていくだろう。3Dスキャン用のブースでロビンは精一杯笑ってみせるが、その笑顔にはどこかもの哀しさが感じられた。  この後、物語は20年が経過し、ロビンがCGキャラクターの契約を延長するかどうかの決断を映画会社に伝えるべく、映画会社が指定したホテルへと向かうシークエンスへと一気に飛ぶ。ここから先は、ロビンにとっても我々観客にとっても驚愕の映像世界が待ち受けている。ロビンが向かったホテルのあるアブラハマシティは“アニメ専用地域”となっており、街全体がアニメーション化され、その街で暮らす人たちはみんな自分が好きなアニメキャラクターとなって過ごしていたのだ。ロビンも受付で薬を渡され、薬がもたらす幻覚効果によってアニメキャラクターへと変身する。映画会社は映画を製作・配給するものづくりの会社から、人々に現実世界を忘れさせる映像的快楽を提供する製薬会社へと変貌を遂げていたのだ。愕然とするロビンの身の上に、さらに予期せぬ出来事が次々と降り掛かることになる。
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アニメーション化された未来社会。誰もが自分の好きなキャラクターになることができ、老いや身体的障害に悩むことのない夢の楽園だった。
 原作小説では宇宙飛行士だった主人公ヨンが映画女優のロビンになるなど、大きく脚色されている本作。フォルマン監督はこう語っている。 「僕の基本的な考えは、古典を翻訳するなら、原作に囚われることなく、自由になる勇気を持つ必要があるということ。原作にはない新しい次元を見つけたいし、原作では共産主義体制の時代が寓意化されているところがあるけど、そこは現代の生活に見合うように改変しなくちゃいけない。そう考えながら脚本を書いているうちに、原作に書かれた化学薬品による独裁体制は、エンターテメント業界、とくに巨大スタジオが牛耳る映画産業における独裁体制に変わっていったんだ」  幻覚作用によって生み出されたアニメーションの世界で、ロビンは意識を失い、さらに20年の歳月が流れる。浦島太郎状態となったロビンの目には、アニメーション化がさらに進み、実態を失った異様な世界が映っていた。そこは誰もが老いの悩みからも身体的な不自由さや外見的コンプレックスからも解放された極楽浄土だった。見た目は美しいが、中身は空っぽな寒々しい世界だった。でも、それは元々はロビンが息子アーロンの病気を心配して、自分の肖像権を売り渡したことから始まった世界だった。凧揚げが大好きだったアーロンは、今どうしているのか。年老いたロビンは鳥に姿を変え、空をさまよいながら息子の姿を探す。ロビン・ライトが歌う「フォーエバーヤング」が流れる。君がいつまでも若く、そのままでいますように。ボブ・ディランが歌った名曲が、アニメーション化されたカラフルな世界に逆説的に響き渡る。物語の終わりに、ロビンはどんなにデジタル化が進んでも変わらないものを見つける。 (文=長野辰次)
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『コングレス未来学会議』 原作/スタニスクフ・レム『泰平ヨンの未来会議』 監督/アリ・フォルマン 出演/ロビン・ライト、ハーヴェイ・カイテル、ジョン・ハム、ポール・ジアマッティ、コディ・スミット=マクフィー  6月20日(土)より新宿シネマカリテほか全国順次公開 (C)2013 Bridgit Folman Film Gang, Pandora Film, Entre Chien et Loup, Paul Thiltges Distributions, Opus Film, ARP http://www.thecongress-movie.jp/

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