石原良純の露出が、ひっそりと増えている。最近テレビをつけていて、こう思ったことはないだろうか。あれ、また石原良純が出ている、と。それはおそらく気のせいや勘違いではない。現在、石原良純は『モーニングバード!』(テレビ朝日系)、『みんなの疑問ニュースなぜ太郎』(同)にレギュラー出演。『クイズプレゼンバラエティー Qさま!!』(同)や『ここがポイント!!池上彰解説塾』(同)にもレギュラーといっていい頻度で出演している。特にテレビ朝日系の情報・報道よりの番組において、硬軟織り交ぜた意見を語るパネラーやMCというのが得意分野だといえるだろう。 だが実際、石原良純とは何者なのだろうか? その答えをしっかりと口にできる人間はそう多くはないだろう。気象予報士の資格を持っているということは知っている。ただそれ以外は、なんだかよく分からない。ひどくふわっとしたイメージしかない。ここで、3月3日に放送された『有吉弘行のダレトク!?』(フジテレビ系)を紹介しよう。この番組に、石原良純は同じく気象予報士である天達武史と共に出演したのだが、街頭インタビューで街の人々からこんな意見が寄せられる。 「天達のほうがプロっぽい」 「(石原良純は)ビジネスっぽい。ビジネス天気予報」 「天気予報する人に見えない。(「ではどう見える?」という質問に)元都知事の息子」 と散々な言われようである。そもそも、気象予報士であるというイメージすら揺らいでいる。結局のところ、いまだに石原良純は、元都知事の息子、と思われているのだ。確かに父親はかの石原慎太郎であり、その弟は石原裕次郎、誰もが道をあける名門中の名門である。そんじょそこらの二世タレントとは比べ物にならない、いわば、二世タレント中の二世タレント。そのイメージは、やはり石原良純に延々とついて回るものなのだ。 二世タレントは大成しない、というジンクスがよく言われる。これはある意味で真実であり、ある意味で誤りである。確かに大成しない二世タレントは数多く存在するが、その逆に、大成した二世タレントも数多い。要は大成するにせよしないにせよ、二世タレントだから、という理由は頭につくわけで、二世タレントはそのイメージで語られる。当たり前の話だが、大成する二世タレントもいれば、大成しない二世タレントもいるのだ。政治の世界で有能な二世議員もいれば無能な二世議員もいるというのと、まったく同じ話である。 では、大成する二世タレントとはどのようにして生み出されるのか? 大きく分けて、2種類がある。まずは、二世タレントであるメリットを武器にするタイプ。そしてもう一方は、二世タレントであるというデメリットを克服するタイプである。 二世タレントであるメリットを武器にするタイプは、役者や音楽家など、いわゆる芸能的な分野に多い。最も分かりやすい例は、歌舞伎役者になるだろう。幼い頃から英才教育をほどこされているため、スタートラインに立った時点ですでに優れている。田村正和や加山雄三、中井貴一などの現代劇の俳優にとっても、親の日常生活を幼い頃から見ているというメリットはあるだろう。そもそも親の職業として芸能活動が身近にあるのだから、すぐ手を伸ばしやすいところに芸能があるといってもいい。 だが石原良純は、そのタイプではない。役者としての仕事ならともかく、タレントとしての活動においてその出自や環境はメリットというよりも、むしろデメリットのほうが大きい。親はすごいのに息子はボンクラ、という他者からの先入観と闘わなければならないからだ。また二世タレント特有の性質として、無駄に大物感がある、という部分も忘れてはならない。その大物感をいかにして世に出すものにできるかが、このタイプの二世タレントの勝負どころである。 そして石原良純とは、この後者のタイプにおいて成功を収めたといえるケースだ。それではいかにして、二世タレントであるというデメリットを克服し、石原良純は成功を収めているのか? そこには大きく分けて、3つの姿勢がある。石原良純のタレントとしての強みとは、以下の3つの姿勢を正しく守っているという点にある。 (1)視聴者の気持ちを代弁できているか? 二世タレントが最も避けなくてはいけないのが、視聴者との気持ちの乖離だ。これが少しでも勘づかれた場合、その発言からは一切の説得力が失われる。結局あの人は特別な家の人だから、と思われたらそこで終わりだ。その点、石原良純の振る舞いは完璧に近い。 たとえば前述した『ダレトク!?』において、元F1ドライバーの中嶋悟が狭い駐車場に車庫入れするというVTRが流れる。その際、MCの有吉弘行とアシスタントが中嶋悟のテクニックを褒めるのだが、そこで石原良純は突っ込みを入れる。「(そんなことで)中嶋を語るなよ!」と。この発言は正しい。実際にVTRでおかしなことをやっているのだから、突っ込みとしては正しいのだが、この発言のあとで石原良純はこう付け加える。「……と、多くの人が思ってると思いますよ?」と。 この、顔に似合わない上品なデリカシーこそが、石原良純の真骨頂だ。あくまでも、視聴者目線を忘れないというスタンス。いわば、視聴者の気持ちを代弁するただの一人の人間として、石原良純はVTRを受けている。上から目線を一切感じさせないこのスタンスは、二世タレントである石原良純が発明した画期的な手法だ。 (2)自分の弱みを見せられるか? 二世タレントとは、そもそもが強い存在である。いわば、初めから持っている人種であり、自分の弱みを見せる、あるいは自分の弱みを造り出すということがある程度必要とされる。 石原良純の場合、それは『モーニングバード!』のコーナー『アカデミヨシズミ』で行われている。このコーナーは、日常生活の健康に関して石原良純が専門家に話を聞きに行くというものなのだが、実際に石原良純の体の悪いところが示されるというのがポイントである。3月2日の放送では、首の傾きが肩こりの原因になっているのではというテーマだったが、計測したところ、石原良純の首はちゃんと傾いている。驚く石原良純。「えーっ! 絶対こっちに傾いてる!」と大騒ぎだ。こういう場所でしっかりと自分の体の不調が存在しているというのが、石原良純の特徴である。 石原良純の肉体が完璧なものなのであれば『アカデミヨシズミ』で語られることは他人事となり、おそらくこれほど長くは続いてはいない。体の不調という弱みが石原良純にはある。このコーナーのためにあえて健康になりすぎないという努力をしていても不思議ではなく、やはり石原良純の現在のポジションは日々のたえまぬ努力によって造り上げられているのだ。 (3)いじられることをいとわないか? 二世タレントであるというデメリットを克服するタイプの二世タレントにおいて、最も重要なのがこの点である。生来持っている大物感を捨てることは、やはりどうしたって難しい。親や出自が偉大であればあるほど、その大物感は身に染み付いているからだ。 この点での石原良純には、ほとんど向かうところ敵なしといった強さがある。『ダレトク!?』においても、スタッフと出演者は気象予報士としての石原良純をいじるわけだが、確実に求められた以上の答えを放ち続ける。「最近も(気象予報士)やってるんですよね?」と有吉弘行から問われた石原良純は「『スーパーニュース』、クビになっちゃったからさあ!」と、具体的な番組名を出し、さらに「クビ」をいうデリケートな単語を自ら口に出す。このサービス精神。さらには「クビになってから何年もたってるけど(まだ)染みてんのよ……」と哀愁を漂わせることも忘れない。これほどまでにいじらせてくれる大人は、そうそういないのではないか。 石原良純がすごいのは、ただいじられるのを待つのではなく、いじらせるような要素を自身から放り込んでくるという点だ。受けではなく、攻めのいじられ。それを自らの言動によって周知のものにしている。こうして石原良純は、二世タレントというデメリットを克服し、テレビから必要とされているのだ。 以上、3つの姿勢において、石原良純のやり方は、他の追随を許さないほどに完璧なものだといえるだろう。これほどの二世タレントが果たしてこの先、出てくるのだろうか。興味を持って、待ちたいところである。 【検証結果】 文字数のため本文では触れていないが、日本の芸能界において石原良純クラスのポテンシャルを持つ二世タレントは、現状、あと二人いる。一人は長嶋茂雄の息子である長嶋一茂であり、もう一人は渡辺徹を父に榊原郁恵を母にもつ渡辺裕太だ。石原良純を加えたこの三人を、二世タレント三羽がらすと呼んでみたい。いずれもタレントとしては二世タレントであるというデメリットを克服するタイプの二世タレントだが、本文で述べた3つの姿勢をそれぞれのやり方で見事に達成している。この三羽がらすの今後の活動については、この先も本連載で述べていくことになるだろう。 (文=相沢直) ●あいざわ・すなお 1980年生まれ。構成作家、ライター。活動歴は構成作家として『テレバイダー』(TOKYO MX)、『モンキーパーマ』(tvkほか)、「水道橋博士のメルマ旬報『みっつ数えろ』連載」など。プロデューサーとして『ホワイトボードTV』『バカリズム THE MOVIE』(TOKYO MX)など。 Twitterアカウントは @aizawaaa『西部警察 キャラクターコレクション ジュン 五代純』(ポニーキャニオン)
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石原良純が示す二世タレントの3つの極意 フジテレビ系『有吉弘行のダレトク!?』(3月3日放送)を徹底検証!
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