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“伝説の俳優”松田優作の魂を受け継ぐ『百円の恋』デブニートが放つ、下流人生から起死回生の一撃!

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“伝説の女優”のレベルに達しつつある安藤サクラ。松田優作賞を受賞したシナリオ『百円の恋』を自分の肉体を使って具象化してみせた。
 熱い映画だ。体中のアドレナリンがざわめく、見る強壮剤と言っていい。見終わった瞬間に、劇場から走り出したくなる。11月から公開されているロードムービー『0.5ミリ』で“映画菩薩”と化した安藤サクラが、最新主演作『百円の恋』では“女阿修羅”へと変貌を遂げる。本作で安藤サクラ演じるヒロイン・一子が戦いを挑む相手は“人生に対する諦め”だ。たぷたぷしたお腹の贅肉にきっぱり別れを告げ、自分の前に立ち塞がる“どうにもならない人生”とボコボコの死闘を繰り広げる。生半可な覚悟では勝てないこの強敵を相手に、ずっと下流人生を歩んできた一子はリング上で堂々と打ち合う。一子のこの大勝負は観客を魅了し、興奮のるつぼへと引き込む。他人事とは思えず、拳を突き出している自分がいることに気づく。  一子(安藤サクラ)は32歳、独身。小さな弁当屋を営んでいる実家で、ニート生活を送っている。離婚して子連れで帰ってきた妹・二三子(早織)の息子と1日中ずっとTVゲームをしている。弁当屋を手伝う気はまるでなく、腰回りにはだらしなく肉がまとわりついている。一子のあまりの自堕落さに、二三子がブチ切れた。ジャージ姿のまま実家を飛び出した一子は、仕方なく100円ショップの深夜勤務に就き、近所の安アパートでひとり暮らしを始める。深夜の職場はダメ人間が集う下流社会の縮図だったが、それでも初めての労働は一子に心地よい刺激を与えた。そんな中で一子はバナナマンと呼ばれる客と出会う。いつもバナナしか買わない狩野(新井浩文)は引退を間近に控えたプロボクサーだった。最後の試合でボロ雑巾のように叩きのめされる狩野を観て、一子は自分の体の奥で火が点くのを感じた。狩野が辞めた後のボクシングジムに通い、無謀にもプロデビューを目指してトレーニングを開始する―。  30年以上生きてきて、熱くなれるものに一度も出会うことのなかったヒロインが、生まれて初めて命懸けになれるものに出会うという極めてシンプルなストーリーだ。2012年に新設された脚本賞「松田優作賞」の第一回受賞シナリオの映画化。下流人生からの一発逆転を狙う一子と同様に、脚本家の足立紳、武正晴監督にとってもこの作品は起死回生を狙った勝負作である。
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プロボクサー役を演じた新井浩文も3カ月間ボクシングジムに通った。リング上で、元日本チャンピオンの連打を浴びている。
 テアトル新宿での一般公開を待つ武監督に製作内情を聞いた。『MASK DE 41』(01)や『童貞放浪記』(09)などの脚本を手掛けた足立紳と『ボーイ・ミーツ・プサン』(07)で長編デビューした武監督が脚本づくりに取り組み始めたのは2010年ごろ。「映画の仕事で20年間食べてきたが、仕事がないヤバい状況になった。映画会社が次々と潰れ、見ている景色が違ってきた」と武監督は当時を振り返る。2人とも40歳を過ぎ、思うような映画づくりができず行き詰まっていた。それならば自分たちが観たい映画をつくろうと、2人でプロットを練り始める。いくつかのプロットはできたものの、2011年に大震災が起き、映画づくりはますます厳しくなった。「もう、本当に自分が書きたいと思うものを書きなよ」という武監督の言葉に押されて、足立紳が2週間後に書き上げたシナリオが『百円の恋』だった。 武監督「シナリオライターが本気で書いた脚本はすごいと、手渡された脚本を読み終えて実感しました。でも、そこから2年近くは地獄でしたね。いい脚本があるのに、映画の企画がまるで進まなかった。僕が『モンゴル野球青春記』(13)のロケハンでモンゴルに行っている間に、足立くんは松田優作賞に応募したんです。彼にとっては最後の賭けだったと思います。プロの歌手が『のど自慢』にエントリーするようなもの。もし、これで落ちたら、プロの脚本家としては終わりなわけです。偽名で応募すれば、と助言する人もいたようですが、彼は本名で勝負したんです」  脚本家の丸山昇一、セントラル・アーツの黒澤満プロデューサー、松田優作の妻・松田美由紀という脚本の目利きのできる松田優作ゆかりの審査員たちによって、応募数151通の中から「第一回松田優作賞」に選ばれたのが2012年11月。そして2014年2月、700名を越えるオーディション希望者からヒロイン・一子役に選ばれたのが安藤サクラだった。もともと中学時代にボクシングを習っていた安藤サクラだが、撮影前の3カ月間は高田馬場のボクシングジムに通い、トレーニングを重ねた。武監督の要求は「プロテスト合格レベルに見えること」。当初の脚本では30歳過ぎた女性がボクシングを始めるという緩いレベルを想定していたが、安藤サクラの身体能力が高いため、ハードルを高くした。集中トレーニングの甲斐があって、ジムの会長から「プロテストを受ければ」と勧められるほどに達した。だが、女優・安藤サクラの真髄は、ただ単にハードなトレーニングを乗り切っただけではない。2014年7月、限られた撮影期間の中、安藤サクラはわずか10日間でお腹をたるませたニート女からプロボクサー然としたシェイプアップされたボディへと自分の肉体を表現してみせた。人間の体は自分の意志次第でここまで変わるのかという驚きがある。『レイジング・ブル』(80)で名優ロバート・デニーロが見せたデニーロアプローチならぬ、サクラアプローチである。撮影期間の短かさを考えると、安藤サクラの凄みがより際立つ。
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ボクシングシーンだけでなく、濃厚な濡れ場もあり。安藤も新井も、俳優として持っているものすべてを出し尽くすことを求められた。
 安藤サクラ演じる一子の熱気に、共演者たちも激しく感化されている。一子がボクシングを始めるきっかけとなる狩野役の新井浩文も3カ月間トレーニングを続け、プロボクサーの体型になってみせた。一子とド派手なケンカを演じる妹・二三子役に選ばれたのは早織。『帰ってきた時効警察』(テレビ朝日系)でコメディエンヌ的な魅力を見せていた彼女も、一子役を求めてオーディションを受けていた。一子役は逃したが、彼女が演じる二三子も子連れのバツイチという人生の崖っぷちを生きる女であることをヒリヒリと感じさせる。深夜の100円ショップに集う根岸季衣、宇野祥平、坂田聡らの“残念な人たち”ぶりも効果的なボディブローになっている。ドブ川のような下流社会がきっちり描かれることで、一子のボクサー姿がいっそうスクリーンに映える。  そしてクライマックスは、一子のプロデビュー戦だ。試合のシーンは8月1日に新宿FACEを借りて1日がかりで撮り切った。安藤サクラの変身ぶりに目を見張るが、対戦相手を務めた若手女優・白岩佐季江も大熱演で応える。彼女も同じジムに通い、安藤サクラと1カ月間試合シーンに向けて合同トレーニングに打ち込んだ。ボクシングを少しでも齧った人ならご存知だろうが、グローブを付けたまま1ラウンドずっとパンチを放ち続けることは常人にはまずできない。1分も持たずに腕が上がらなくなる。それを彼女たちは1日中続けた。早朝から深夜までリング上で何度も何度も繰り返し闘い続ける2人を観て、立ち会ったボクシング関係者は「女優はここまでやらなくちゃいけないのか」と唖然としたそうだ。試合の最後に一子が見せる壮絶な表情は、もはや役づくりとか演出とかを完全に越えた“逝っちゃった”ものになっている。  リスクを伴う冒険に挑んだ人間にだけ、新しい道が開ける。全力を出し切って辿り着いた先に、少しだけ新しい世界が顔を覗かせる。でも、新しい世界への扉が開いているのは、ほんの一瞬だ。死にもの狂いで闘った直後に、その扉の向こう側に飛び込まなくてはならない。そして、扉の向こう側で待っているのは、心安らぐ楽園ではない。さらに過酷なハイレベルな闘いが待ち受けている。一子にとって、本作に関わったスタッフやキャストたちにとって、本当の闘いがそこから始まる。上映を見届けた観客も、劇場の扉を開けた瞬間から新しい何かが始まるはずだ。 (文=長野辰次)
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『百円の恋』 脚本/足立紳 監督/武正晴 主題歌/クリープハイプ「百八円の恋」 出演/安藤サクラ、新井浩文、稲川実代子、早織、宇野祥平、坂田聡、沖田裕樹、吉村界人、松浦慎一郎、伊藤洋三郎、重松収、根岸季衣  配給/SPOTTED PRODUCTIONS R15 12月20日(土)よりテアトル新宿ほか全国ロードショー (c)2014東映ビデオ  http://100yen-koi.jp

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