「しくじらないで生きていける人間なんているのか!」 オリエンタルラジオの中田敦彦は、“生徒”たちを前にものすごい熱量で語った。10月2日からレギュラー放送が始まった『しくじり先生 俺みたいになるな!!』(テレビ朝日系)は、人生を「しくじった」経験がある人を講師に迎え、その失敗から「しくじらないための極意」を学んでいこうという番組である。昨年11月から不定期で放送された3回のパイロット版が好評を博し、レギュラー化したものだ。 たとえば、パイロット版の2回目となる3月14日の放送では、元フィギュアスケート・織田信成が講師として登場。大舞台でしくじってしまった過去を振り返りながら、それを回避する極意を教えた。信成は「20年間、あと一歩のところで天下を取り逃してきたんです」と語り、世界フィギュア選手権(2009年)、バンクーバー五輪(2010年)、グランプリシリーズ中国杯(2009年)を自ら「3大しくじり舞台」と挙げる。そして、それぞれに「ジャンプ一回多く飛んじゃったの乱」「靴ひもが切れちゃったの乱」などと名前を付け、自分の失敗体験を軽妙に語っていく。極めつきは、中国杯での「自分でも信じられ変」。チャップリンを模した衣装の股間のチャックが全開のまま演技してしまったあの事件を、「後にマスコミに『チャックリン』と名付けられた」などとユーモアたっぷりに披露したのだ。信成はこの放送がきっかけになったのか、その後、フィギュアスケート関連以外の番組でもテレビタレントとして数多くの番組で見かけるようになっていった。 そして、レギュラー番組になって初めての講師役がオリエンタルラジオだった。オリエンタルラジオといえば、「史上最速のブレーク」などという肩書で売り出され、デビューしてまもなく、レギュラー番組はもちろん、ゴールデンタイムに冠番組まで作られた。しかし、それも長く続かず、わずか数年で失墜。レギュラー番組は次々と終了し、まさに「しくじり」を経験した。それを中田は「ここまでゴリ押しされて、全部終わったの、おそらく初めてですよ」と自嘲して言うのだ。「ゴリゴリ押しのゴリ終わり!」と。 その後、しばらく低迷し、同期のはんにゃらに逆転されたものの、藤森慎吾の“チャラ男”のキャラなどで再浮上するという上り下りの激しい芸人人生を歩んでいる。こんな経験をした芸人はなかなかいない。だから「この授業は僕らにしかできない」と、中田は胸を張る。 なぜ、「史上最速のブレーク」を果たしたオリエンタルラジオが失墜したのか? もちろん、それにはさまざまな要因があるだろう。だが、中田は潔くたったひとつの理由に集約させた。 「ハッキリ言いましょう、天狗になったんです。ふたりとも!」 当時から「これはもう『現象』」「僕らがこうだからとか、ここでこうしたいからという理由では説明がつかない」(『Quick Japan』Vol.77/太田出版)などと自分たちの置かれた状況を客観視していた中田であれば、“天狗”になってしまう罠を回避できたのではないか、と思える。しかし「なりたくてなる天狗はいない」「天狗には自覚症状がない」と中田は言う。 そして、“天狗”を定義し直す。「天狗とは、特別扱いを当然だと思っている状況」だと。つまり、自分が“特別扱い”されていることが当たり前になってしまうから、“特別扱い”されていることにすら気づかない状態なのだ。 たとえば、オリエンタルラジオのDVD『十』(よしもとアール・アンド・シー)。DVDが売れない、ライブDVDでさえ出すのが難しいとされる時代に、中田は「映像作品を撮りたい」と予算を度外視。かけた予算は映画1本分並み。それが許されてしまっていたのだ。企画会議の中で、中田はこう言い放ったという。 「普通の笑い作りたいんじゃないんだよ、時代を作りたいんだよ!」 その後、中田は次々と番組を失っていく経緯を生々しく講義していく。そして、レギュラー番組を失った“暗黒期”には仕事が「モアハード モアスモール」、つまり「よりエグく、より小規模になります」と、過酷な体験が語られていく。たとえば、ある番組で1年間農業をするという企画があったという。ただ農業をするわけではない。山自体を切り開いていくというものだ。別の番組では韓国の整形ブームを特集した際、中田は実際に手相を整形した。これは想像よりも危険な手術で、完治まで1カ月を要したという。それぞれにキツイ体験であるが、何よりもキツイのが、これらが結局、オンエアされなかったということだ。中田は言う。 「みなさんが思ってるより、下り坂は長くて暗いです」 中田は、かつて自分たちの“現象”を「吉本興業の中での実験」だったと語ったことがある。 「テクニックもキャリアもなくても、それで成立するんだったらビジネスモデルとしては正解じゃないですか。コストがかかってなくてパフォーマンスが得れるわけですから。これが成立したらこれをどんどんやっていくつもりだったんだと思うんです。だけど、それができなかった! 促成栽培ができるもんじゃない。それが芸人なんだ、っていうのを逆説的に証明したのがオリエンタルラジオなんです!」(『ブラマヨとゆかいな仲間たち』テレビ朝日系) 中田のゾッとするほどの冷静さ、客観性が、逆に当時の深すぎる苦悩を物語る。早すぎたブレークによって、オリエンタルラジオはリアルタイムでその苦悩や挫折、迷走や変化、そして成長までも視聴者に晒されるという奇妙な境遇に身を置くことになった芸人である。そしてそれを中田が残酷なほどの客観性と、激しい熱量を両立させながら“解説”する。いわば、オリエンタルラジオは「しくじり」そのものを、“芸”に昇華させたコンビなのだ。だから、これ以上ないほど『しくじり先生』を体現している。実際にその講義は、生徒たちが「何、この教科書?」と唖然としてしまうくらい、素晴らしいものだった。この後、登場する講師たちのハードルが上がりすぎてしまったことこそ、番組の「しくじり」なのではないかと心配してしまうほどに。 最後に中田は「一度しくじった人は『とりあえず、食って行きたい』『かつてライバルだったあいつを今度は応援したい』などと“下方修正された夢”を語り、『今がありのままの自分だ』と、“小さなプライド”を守ってしまいがち」だと言う。「俺は夢に破れたわけじゃないんだ。しくじったわけじゃないんだ。いま少し自分が見えてきたんだ」と。だけど、そうじゃない。しくじってから本当の挑戦は始まるのだ。 「負けてからビックマウスになる勇気」 それが必要なのだ。「自覚的な天狗は、夢の成功者」だと。中田には、いつかもう一度花開いた時に絶対に言いたいという“天狗ゼリフ”があるという。 「普通の視聴率獲りたいんじゃないんですよ、天下獲りたいんです!」 あっちゃん、カッコいいー! (文=てれびのスキマ <http://d.hatena.ne.jp/LittleBoy/>) ◆「テレビ裏ガイド」過去記事はこちらから怖いものなしだった頃のオリラジ
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オリラジ中田が熱弁「なりたくてなる天狗はいない」 『しくじり先生』の、成功するための教科書
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