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石塚英彦が笑顔で隠す驚異の食レポ術 『メレンゲの気持ち』(5月17日&24日&31日放送)の「通りの達人」徹底検証!

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「笑っているよ」(tearbridge)
毎回、1人の「バラエティタレント」にスポットを当て、地味ながらも優れた彼らの仕事ぶりを考察する連載。  食レポ。いわゆるグルメレポートである。「飯を食べて感想だけ言ってりゃいいんだから、楽なもんだ」と思われる節もあるかもしれないが、もちろんそんなわけはなく、食レポという仕事の難易度は極めて高い。ロケとしての自由度が高く、また原則としてカメラの台数も少なく編集でのごまかしも利かないため、タレントとしての素の実力が最も試される場所だといえるだろう。さらにその上で、自分の個性や長所を出さないと次に呼ばれるという保証もない。食レポタレントとは、そういったシビアな場所で日々戦っている人種なのである。  2014年現在の“食レポ三羽がらす”といえば、ってそんな言葉はないのだが、作ってしまえば、おそらく彦摩呂、阿藤快、そして本日取り上げる石塚英彦になるのではないか(関西にはタージンという怪物もいるが、あまりにも特殊なスタイルなので、ここでは取り上げない)。中でも石塚英彦は『メレンゲの気持ち』(日本テレビ系)内のコーナー「通りの達人」を2000年1月からスタートさせており、食レポの第一人者といっていいだろう。パイオニアであり、かつ現役のチャンピオンでもある、偉大なる食レポーターだ。  それではなぜ、石塚英彦は10年以上にわたって食レポの王者で居続けることができるのだろうか? 今回は『メレンゲの気持ち』を3週間にわたって調査し、1つの確証を得た。石塚英彦の食レポは、極めて周到に考えて造り上げられた作品である。  石塚英彦の食レポ、そのリアクションや発言は、大きく分けて以下の3つに分類される。「(1)キャラクター」「(2)ナンセンス」「(3)詩的表現」以上の3つだ。これがいわば、石塚英彦がその笑顔に隠した、3つの罠である。それでは1つずつ確認していこう。 (1)キャラクター  石塚英彦といえば見て分かる通りデブキャラであり、たいていの日本国民にとっては周知の事実だろう。だが「通りの達人」において、石塚英彦はしつこいほどにそのデブというキャラクターを前面に押し出している。実際の発言を見てみると、 ・「デブ暦的に夏はもう始まってるね」(5月17日放送) ・「日向をデブが歩くと目がくらむ」(5月24日放送) ・「(エスカレーターで2階に上がり)まったくヒザから嫌な音がしないで2階に上がってきました」(5月31日放送) などなど、10分少々のコーナーで最低でも2回から3回は自分のデブを笑いにしている。これはもちろん笑いが取りやすいという背景もあるのだろうが、それ以上に視聴者に対する目線づけの意味合いが大きい。つまり石塚英彦は「これは、食いしん坊なデブがおいしいものをおいしく食べるロケである」ということを視聴者に伝えているのだ。そして実際、視聴者はそのようにしてVTRを見ることになる。  この結果、2つの副産物が生まれる。まず1つは、そのデブキャラに応じた笑いを作れるということであり、「まいう~」という決めゼリフはまさにその象徴だといえる。そしてもう1つ、実はここが重要なのだが、取り上げる情報に対してのハードルが一気に下がる。食いしん坊なデブである石塚英彦が何かをおいしそうに食べれば、そこでロケが成立するからだ。最新スポット情報や珍しい料理である必要はなく、どんな場所でも撮れ高が期待できる。これは制作サイドにとってもかなりのメリットでもあり、石塚英彦が長年食レポの第一人者で居続けられるのは「食レポのキャラクター化」に成功したからだと言ってしまってもいいだろう。 (2)ナンセンス  石塚英彦といえばダジャレというイメージは強いが、確かにナンセンスで下らないジョークもロケ中に多用している。実際にこの3週間でも、 ・「(冒頭で)みなさんこんにちは、ミランダ・カーです」(5月17日放送) ・「これはやられた。やらレターフロムカナダだよ」(5月24日放送) ・「(「新ゴボウ」に引っ掛けて)こんばんは。森新ゴボウです(森進一の口調で)」(5月31日放送) など、実に頻繁にこういった発言を繰り返しているのだが、あらためて注意して見てみると、予想以上に適当であった。「新ゴボウ」から「森新ゴボウ」というのは、さすがにだいぶ無理があるんじゃないか。大丈夫なのか、石塚英彦。果たして、大丈夫なのだ。実は、これらの発言はあくまでもフリにすぎない。これらの発言によって石塚英彦は言葉を無効化する。なんのために? 次に述べる「詩的表現」を、視聴者に対して自然に聞かせるためにだ。 (3)詩的表現  実は、石塚英彦の食レポの真骨頂は、まさにこの「詩的表現」である。一般的に食レポとは、食べたあとの感想やリアクションが重要だと考えられている。なぜならば視聴者が最も知りたいのは、その味だからだ。料理の見た目は視覚で認識できるが、テレビは味覚を伝えることができない。だからこそ、食レポーターは存在している。というのが定説だが、石塚英彦の食レポは、その概念を根底から覆す。石塚英彦の食レポの特殊性は、食べる前の料理に対する言葉での表現にこそあり、それはほとんど「詩」と言っていいほどに、見事に確立されている。5月17日の放送から抜粋しよう。 ・「(スープに浸かったハンバーグを見て)うまそうなカルデラ湖が出てきましたよ」 ・「(ガパオガイランチプレートの上に乗った半熟卵をつぶして)世界で一番ずるいイエローですね」 ・「(生春巻きに包まれた海老に対して)見てください。シースルーのドレスの中に海老ですよ」  どこかの歌の歌詞で出てきてもおかしくないくらいに、見事としか言いようがない表現である。食べ物に対してこれほどまでに詩的な表現ができるタレントは、おそらく2014年現在、石塚英彦をおいてほかにはいないだろう。そして繰り返すが、特筆すべきはこれらの表現が、食べる前、料理を見た段階でなされているという事実だ。石塚英彦は、食レポの概念を変えた。その笑顔に騙されてはいけない。にこやかに笑みを浮かべながら、石塚英彦は、食レポという戦場で当たり前のように革命を起こし続けているのだ。 【検証結果】  食べるという行為は、人間活動において根源を成すものである。誰もが経験している行為であり、だからこそ食レポが職業として成立するためには、不断の努力が必要となる。石塚英彦はおそらくプライベートにおいても食事の際には、この食べ物に対してどんな表現ができるかを考えているだろう。そうでなければ、これほどまでに見事な詩的表現を当たり前のようにすることなどできはしない。食べることを職業として選んだタレントは、常に仕事から離れることができないのだ。その覚悟と、プロフェッショナルとしての矜持が下敷きにあるからこそ、「まいう~」という言葉は私たちの胸に響くのだろう。 (文=相沢直) ●あいざわ・すなお 1980年生まれ。構成作家、ライター。活動歴は構成作家として『テレバイダー』(TOKYO MX)、『モンキーパーマ』(tvkほか)、「水道橋博士のメルマ旬報『みっつ数えろ』連載」など。プロデューサーとして『ホワイトボードTV』『バカリズム THE MOVIE』(TOKYO MX)など。 Twitterアカウントは @aizawaaa

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