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Channel: 日刊サイゾー
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「強すぎるとヒーローは怪人と変わらない」『BORDER』が示す、刑事ドラマのボーダーライン

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『BORDER』テレビ朝日
 殺人事件の被害者(つまり死者)と話ができるとしたら、刑事として最強である。犯人はもちろん、殺害方法も被害者の“証言”でたちどころに分かってしまうのだから。あまりにも最強すぎて、ドラマとして成立しないのではないか――。ドラマを見る前はそう思っていたが、そんな浅はかな予想を見事に裏切ったのが『BORDER』(テレビ朝日系)だ。直木賞作家・金城一紀が原案、脚本を務め、主演は小栗旬。  主人公・石川安吾はある事件で弾丸を頭に受け、瀕死の重傷を負った。仮死状態から奇跡的に蘇生した石川はこの日以降、死者と話せるようになったのだ。石川が死者と話せることで、たとえ犯人が分かったとしても、直ちに犯人を逮捕できるわけではない。死者の“証言”では立証できないから証拠が必要だし、警察という組織である以上、捜査方針もある。このあたりの障壁の作り方が巧みだ。また、“死者”役が被害者ではなく、自殺した犯人だったり、殺されても仕方がないような男だったり、死んだ瞬間に記憶を失っていたりと変化に富んでいて、視聴者をまったく飽きさせない。  石川とともに事件を捜査するのは、上司で石川を目にかけている市倉(遠藤憲一)、同僚でライバルの立花(青木崇高)、特別検視官の比嘉(波瑠)。石川はもともと正攻法で捜査するタイプだったようだが、死者と話せるようになって最短距離を選ぶようになっていく。その結果、情報屋の赤井(古田新太)や便利屋のスズキ(滝藤賢一)、そしてハッカーのサイモン(浜野謙太)とガーファンクル(野間口徹)といったダークサイドの面々に協力を仰ぎながら、死者の無念を晴らすため“汚い”手段を用いてでも事件を解決していくようになった。  第5話のゲスト、つまり死者役は宮藤官九郎だった。閑静な住宅街でサラリーマン風の男の死体が発見される。最近頻発する、ノックアウト強盗の被害者なのではないかと疑われる事件だった。  そんな死体の脇に体育座りで佇む、見るからに情けない風貌の男がクドカンだ。 「何かすごく大事なこと、忘れてる気がするんです。お願いします! 助けてください! こうなったら自分が誰か、なんで死んだか思い出すまで、あなたのそば離れませんからね」  その言葉通り、男は石川のそばを背後霊のように離れることなくついていく。自分の検死にも立ち会うと「あんなきれいな人(波瑠)に触られてる……。なんか興奮してきた!」「エグいなぁ! ちょっとしんどいんで見なくてもいいですか?」などと言って、石川に「黙れ。死人らしくしてろ」とたしなめられる始末。やがてノックアウト強盗の犯人が捕まるが、男の記憶は戻らない。だが、夫の死を知った妻の姿を見て、ようやくすべてを思い出すのだった。仕事で悩みを抱えていた男は、それを妻に言えないまま「出張」とウソをついて会社を休み、生まれて初めての風俗に行こうと思い立ったのだという。だが結局、風俗には行けず、お酒を浴びるように飲んだ男は、帰り道にチェーンを飛び越えようとして転んで胸を強打。朦朧としながら歩きつまずいて、さらに電柱で頭部を打ちつけたのだ。「事件」ではなく、ただの残念すぎる「事故」だった。 「失礼ですが……、コメディ映画のような展開ですね」  まさにコメディ。石川と男の会話劇は実にコミカルで面白い。だが、最後は感動的なシーンに結実していくのだ。役者・宮藤官九郎の魅力が最大限発揮されたエピソードだった。  一転して、シリアスに石川が初めて“敗北”感を味わうのが第7話だ。 「犯人を追い詰めるのをやめない刑事か。いいね、ロマンティックだ」  そう不敵に笑うのは“掃除屋”と呼ばれる裏社会の証拠隠滅請負人・神坂(中村達也)。 深夜の街角で大学生がひき逃げされ、死亡した。目撃者が車のナンバーを覚えていたので、逮捕も時間の問題だった。しかし、そのひき逃げ犯・宇田川(矢野聖人)は大物政治家の息子だったのだ。  程なくして目撃者や関係者は証言を翻し、宇田川が犯人だと裏付ける証拠の痕跡は“掃除”されるように消えていった。もちろん、神坂の工作によるものだ。  それでも石川は、宇田川の車に同乗していた恋人を足がかりに、情報屋やハッカーたちを使って犯人を追い詰めようとしていく。やがて、宇田川の恋人が死体として発見される。そして石川と対峙した神坂は、再び不敵に笑う。 「お前がイキがればイキがるほど、弱い人間が犠牲になっていくぞ。自分のせいで人が死んだ気分はどうだ?」  神坂を演じる中村達也はBLANKEY JET CITYのメンバーとして活躍した伝説的ドラマー。役者として『週刊真木よう子』(テレビ東京系)やNHK大河ドラマ『龍馬伝』などにも出演し、強烈な存在感を発揮していた。今回の神坂役も、その漂う“ヤバい”雰囲気に圧倒的な説得力を持っていた。結局、神坂の計略にまんまと引っ掛かり足止めされた石川は、宇田川の海外逃亡を許してしまう。 「世の中狂ってますよね。でもだからこそ、私とかあなたのような人間が活躍できるんです」  神坂に敗北した石川は暴走し、刑事としてのボーダーラインを越えようとする。ハッカーのサイモンとガーファンクルに、宇田川の犯罪のウワサをネットで拡散してほしいと頼むのだ。 「僕たちを使ってリンチしようってこと?」    2人は悲しそうにパソコンの電源を落とし、石川に背を向けるのだった。 「強い光が差すところには、必ず濃い影も浮かぶものだ。影に飲み込まれるなよ」 と石川に市倉は言った。  石川は「生」と「死」のボーダーラインに立ちながら、「光」と「影」の境目で揺れ動く。 「ヒーローは必要だ。だがな、強すぎるとヒーローは怪人と変わらないんだ」  『BORDER』は一見、斬新で奇抜な設定の強すぎるヒーローの物語だ。だが、それを成立させるためにさまざまな工夫を凝らし、ドラマとしての危ういバランスのボーダーに立っている。そしてコメディタッチからシリアスな展開まで自在に変化しながら、刑事ドラマ本来が持つバラエティに富んだ魅力を発揮している。それこそが刑事ドラマの「王道」であり、魅力的な刑事ドラマのボーダーラインなのだ。 (文=てれびのスキマ <http://d.hatena.ne.jp/LittleBoy/>) 「テレビ裏ガイド」過去記事はこちらから

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