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高齢者のセックスや懐エロ特集ばっかでいいの? スクープ報道に注ぐ情熱と誤算『ニュースの真相』

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CBSの元プロデューサーによる実録ドラマ『ニュースの真相』。現役大統領に関するスキャンダルをスクープ報道しようとするが……。
 アイドルは一度やると、やめられないという。ステージ上で眩いスポットライトやフラッシュを浴び、世界中の人々が自分に注目しているのだという恍惚感が病み付きになってしまうそうだ。逆にフラッシュを浴びせる側だが、取材記者も一度スクープをものにしてしまうと、やめられなくなってしまう。特にスクープした相手が権力者だと、権力者の裏の顔を暴くというスリリングな行為に心臓をバクバクさせながら例えようのない高揚感を覚えることになる。そしてスクープをものにすると、「もっと大きなスクープを」という欲望に駆られていく。ケイト・ブランシェット主演作『ニュースの真相』は、スクープ報道に熱中するあまり、大きな失敗を招いてしまう取材チームの顛末を追った苦い実録ドラマとなっている。  主人公のメアリー・メイプス(ケイト・ブランシェット)は、米国最大手のネットワーク放送局CBSの報道プロデューサー。CBSの看板番組『60ミニッツ』の人気キャスターであるダン・ラザー(ロバート・レッドフォード)と長年コンビを組み、ダンから深い信頼を得ていた。2004年4月にはイラクのアブグレイブ刑務所での米兵による捕虜虐待の実態をスクープ報道するという特ダネを挙げたばかりだった。勝利の美酒に酔いしれるメアリーのもとに「美味しい肉があるよ」と一通のメールが届く。  美味しい肉とは取材ネタのこと。フリー記者のマイク(トファー・グレイス)がもたらしたネタは、ブッシュ大統領の過去について。マイケル・ムーア監督がドキュメンタリー映画『華氏911』(04)で取り上げることになる、ブッシュ家とオサマ・ビンラディンが石油利権で繋がっていたというネタ。結局、このネタは採用されなかったが、ブッシュに関するもうひとつの噂を追うことになる。若い頃かなりの放蕩児だったブッシュは、パパ・ブッシュのコネでベトナム出征を逃れるためにテキサス州兵となり、しかも州兵としての義務を果たしてなかったというもの。アブグレイブ刑務所の取材に協力したロジャー(デニス・クエイド)、大学でジャーナリズム学を教えているルーシー(エリザベス・モス)も、この取材チームに加わる。大統領選挙イヤーのタイムリーな企画として、CBSの上司たちはGOサインを出す。  ブッシュの過去を知る関係者をシラミつぶしに当たったメアリーたちは、州兵時代のブッシュの怠慢ぶりを記した“キリアン文書”に突き当たる。このキリアン文書こそ、美味しい肉だった。だが、メアリーが手に入れた文書はコピーであり、しかも入手経路が曖昧だった。文書の内容を裏取りしたいが、州兵時代のブッシュの上官で、この文書を書き残したキリアン中佐はすでに他界している。この肉はとても美味しそうだが、毒入りかもしれなかった。
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『ヴェロニカ・ゲリン』(03)と『大統領の陰謀』(76)でそれぞれ新聞記者を演じたケイト・ブランシェットとロバート・レッドフォードが初共演。
 さらにメアリーを悩ませる難問が生じる。ダン・ラザーがキャスターを務める『60ミニッツ』はCBSの良心と言える番組だったが、報道番組は製作費がかさむものの思ったほど視聴率が伸びないため、最近は高視聴率が約束されているカリスマ宗教家や人気心理学者の特番がプログラムされるようになり、このスクープを報道するには一カ月後の『60ミニッツ』しか空いていなかった。それでは他のメディアに先を越されてしまう可能性が出てくる。CBSの社員プロデューサーが「いっそのこと、5日後の『60ミニッツ』でやる?」と提案する。世界最大の権力者である米国大統領の去就を左右しかねない大スクープを、限られた僅かな時間できっちり精査してオンエアする。無茶を承知でメアリーは5日後のオンエアを呑む。スクープにはリスクが付き物だ。別件の取材に追われるダン・ラザーに叱咤されながら、メアリーたちは裏取り作業に奔走する。  ブッシュ大統領の軍役詐称問題は2004年9月の『60ミニッツ』でオンエアされ、大きな波紋を呼ぶ。喜びを分かち合うダンとメアリー。だが、無上の快感を味わえたのはその夜だけだった。オンエア直後には保守系のブロガーが「キリアン文書は捏造されたもの」と指摘し、CBSに度々スクープを奪われてきた他局もこのブロガーの主張に追随し、番組責任者であるメアリーとダンへのバッシングを始める。キリアン文書の疑わしさよりも、ブッシュの軍歴詐称のほうが重大ではないかというメアリーの声はバッシングの嵐に掻き消されてしまう。人気キャスターとして華々しい人生を歩んできたダン・ラザーはガセネタをつかまされた男として晩節を汚すことに。メアリーも査問委員会に呼び出される。  ブッシュの軍歴詐称疑惑問題は、単にメアリーが犯したミスでは済まなかった。テレビという巨大メディアの報道番組全体に影を落とすことになる。伝統ある米国の主要新聞も「イラクは大量破壊兵器を隠している」というブッシュ政権を支持したことで、すでに権力構造を監視するという立場を失っていた。新聞、そしてテレビからジャーナリズムが失われていく。代わって、メアリーたちを苦境に追い込んだネットメディアが台頭していくことになる。
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番組オンエア後、メアリーは査問委員会に呼び出されることに。政治的思想に偏向があったかに加え、取材先との利害関係も疑われる。
 あらゆる職種に経済効率が求められるようになり、報道の世界もその例外ではなくなってしまった。スクープ報道をものにするには多くの社外スタッフを養わなくてはならず、また常にスクープをものにできるとは限らない。もしスクープできても、相手が裁判沙汰に持ち込むとさらに経費と労力を奪われることになる。日本でも週刊文春とそれを追う週刊新潮以外の週刊誌は、高齢者向けのセックス特集や懐かしいアイドルのお宝ヌードに誌面の多くを割くようになった。そのほうが安定した部数をキープでき、無駄な経費も使わずに済むからだ。 『ヴェロニカ・ゲリン』(03)で命を張った取材を続ける新聞記者を演じたケイト・ブランシェットが、再びスクープに燃えるジャーナリストを熱演した。彼女が演じたメアリーは実の父親とは折り合いが悪く、ダン・ラザーのことを“理想の父性”として慕っている。メアリーとダン、そして取材チームは、血の繋がった家族とは異なる、同じ志を持つ“新しい家族”として描かれている。だが、CBSの上層部はブッシュ軍歴詐称報道を誤報と認めることで事態の収束を図る。ダン・ラザーが敬愛される国王として統治してきた“最後の王国”はあっけなく瓦解することになる。王国の崩壊は、テレビメディアの落日でもあった。スクープ報道がもたらす興奮と衝撃は、もはや過去のものとなりつつある。 (文=長野辰次)
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『ニュースの真相』 製作・脚本・監督/ジェームズ・ヴァンダービルド  出演/ケイト・ブランシュット、ロバート・レッドフォード、エリザベス・モス、トファー・グレイス、デニス・クエイド、ステイシー・キーチ、ブルース・グリーンウッド、ダーモット・マローニー  配給/キノフィルムズ 8月5日(金)よりTOHOシネマズ シャンテほかにて全国順次ロードショー (C) 2015 FEA Productions, Ltd. All Rights Reserved. http://truth-movie.jp/

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