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北九州監禁殺人事件、尼崎変死事件に似ている!! 恐怖と暴力による洗脳『クリーピー 偽りの隣人』

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黒沢清監督にとって久々の犯罪サスペンス『クリーピー 偽りの隣人』。身近なところから、かつてない恐怖が忍び寄る。
 今年1月に劇場公開された中村義洋監督の『残穢 住んではいけない部屋』は、かなり不気味なホラー映画だった。自分が住んでいるマンションは以前どんな人間が暮らしていたのかよく分からないという、地縁や血縁から切り離された現代人の浮遊感・不安感がもたらす恐怖を描いていた。黒沢清監督の『クリーピー 偽りの隣人』もまた流動性の激しい都市部で起きる怪事件を扱ったものだ。『クリーピー』には幽霊などオカルト系の類いはいっさい現われないが、幽霊以上におぞましく、常識がまるで通用しない“ご近所さん”がこちらに向かって近づいてくる。  近年は『トウキョウソナタ』(08)や『岸辺の旅』(15)など非ホラー系の家族ドラマが高く評価されている黒沢監督にとって、『クリーピー』は『CURE キュア』(97)以来となる久々の犯罪サスペンス。黒沢監督のブレイク作『キュア』では萩原聖人が催眠術を巧みに操り、次々と遠隔殺人を行なった。だが、『クリーピー』はさらに現代的にバージョンアップされた形となっており、催眠術を使わずとも人間がいとも簡単にマインドコントロールされてしまう恐ろしさが描かれている。  2011年に発表された前川裕の処女小説『クリーピー』(光文社)が原作だが、黒沢監督は原作の設定だけをもらって、ストーリーは映画独自の展開となっている。犯罪心理学者の高倉(西島秀俊)は妻の康子(竹内結子)と共に東京の都心部から少し離れた静かな住宅街に引っ越してきた。お菓子を持って引っ越しの挨拶回りをするが、このへんはご近所づきあいがないらしく、ろくに挨拶ができないまま引っ越し初日を終える。後日、康子がひとりで改めて隣家を訪ねると主人の西野(香川照之)が出てきたが、あまりに不躾な態度で康子はショックを受けてしまう。中学に通う西野の娘・澪(藤野涼子)はきちんとしているだけに、余計に西野家のことが気になってしまう。
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隣家に暮らす西野(香川照之)と長女の澪(藤野涼子)。西野の妻と長男は家に篭ったまま、姿をまるで見せない。
 一方、大学に勤める高倉を刑事の野上(東出昌大)が訪ね、6年前に日野市で起きた一家行方不明事件の再捜査に協力してほしいと頼んできた。長女の早紀(川口春奈)だけが生存しているこの迷宮入り事件を調べていくうちに高倉は、事件現場一帯の家の並び方が自分の新居周辺とひどく酷似していることに気づく。どうやら犯罪をやるのにうってつけの物件というものがあるらしい。高倉が事件の真相究明にのめり込んでいる間、高倉家とその周辺はおぞましい悪意による侵蝕が進行していた。  原作を大胆にアレンジした黒沢監督が映画化する上で参考にしたのが、2002年に発覚した北九州監禁連続殺人事件、2011年に発覚した尼崎連続変死事件といった実在の猟奇殺人事件。どちらの事件も主犯者は自分が直接手を下すことなく、監禁状態に置いた被害者同士を殺し合わせている。身内同士を争わせ、しかも生き残ったほうに死体の処理まで命じている。「週刊文春」の連載記事の書籍化『殺人犯との対話』(文藝春秋)でこれらの事件が起きた監禁部屋の実態を知ると、猛烈な嘔吐感に襲われる。恐怖と暴力によって洗脳された人間は、監禁部屋から逃げる気力すら奪われ、支配者に命じられるまま否応なく殺人や死体処理まで実行してしまう。  本作に登場するクリーピー(ぞっとする)な犯人もまた悪の天才であり、言葉巧みに善良な一家に近づき、甘い汁を絞れるだけ絞った挙げ句に警察の目に留まらぬように静かに立ち去り、次の獲物へと忍び寄っていく。原作ではシロアリ駆除の業者を装って犯人は一般家庭に上がり込み、多額の請求を押しつけながら徐々に懐柔していく手口が記されている。シロアリの被害と同じように、一見すると平和そうな家庭も知らない間に土台や柱を喰い尽くされ、気が付いたときにはすでに手遅れ状態となってしまう。
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日野市で起きた一家失踪事件で生き残った早紀(川口春奈)。高倉や刑事の野上は、早紀の心情を考えずに当時の状況を執拗に聞き出す。
 本作でヤバいのは、犯人だけではない。奇妙な事件を追うことに熱中するあまり、犯罪心理学者の高倉も刑事の野上も自分の足もとや背後で起きていることにはまるで気づかずにいる。高倉と野上も犯罪者の暗黒面にどうしようもなく惹かれてしまうという心の闇を抱えている。犯人から見れば、スキだらけの人間なのだ。凶悪犯罪とは無関係のまっとうな人間もその家族も、ほんのちょっとウィークポイントを突くだけで、ドミノ式にあっけなく崩れ落ちてしまう。  黒沢監督から興味深い話を聞いた。ベルリン映画祭や香港映画祭でプレミア上映された際、引っ越したばかり康子たちが近所にお菓子を持って挨拶回りするシーンが海外の人たちには奇異に感じられたらしい。引っ越しの挨拶回りは日本独自の習慣らしく、海外では面識のない家々を一軒ずつ訪ねて回ることはしないそうだ。挨拶を交わしただけで、隣人のことを知った気になって安心してしまう。こういう状況がいちばん心のスキを生みやすいんでしょう。黒沢監督は澄ました顔で、何気に恐ろしいことを口にする。近所づきあいがとても曖昧な日本の都市部は、犯罪者にとって格好の狩猟場に映るらしい。 (文=長野辰次)
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『クリーピー 偽りの隣人』 原作/前川裕 脚本/黒沢清、池田千尋 監督/黒沢清 出演/西島秀俊、竹内結子、川口春奈、東出昌大、香川照之、藤野涼子、戸田昌宏、馬場徹、最所美咲、池田道枝、佐藤直子、笹野高史  配給/松竹 6月18日(土)より全国ロードショー (c)2016「クリーピー」製作委員会 http://creepy.asmik-ace.co.jp

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