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実直な職業ドラマ『重版出来!』が描く、「前向き」になる方法

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火曜ドラマ『重版出来!』|TBSテレビ
『重版出来!』(TBS系)は、見ると前向きになれるドラマである。  主人公の黒沢心は、週刊コミック誌「バイブス」の編集部に配属されたばかりの新社会人。入社前は柔道で日本代表を争っていたが、ケガで選手生命を絶たれたという経歴を持っている。体育会出身らしく、元気で明るくハキハキしていて、やる気に満ちあふれている。  彼女を演じるのは黒木華。典型的な「朝ドラのヒロイン」的人物像で、ややもすればウザい感じになりがちなところを、絶妙なバランスで演じ、不快感を味わわせない。  同名の人気原作マンガのドラマ化とあって、放送前から期待も高かったが、それに見事応えている。主人公の黒木をはじめ、編集長・和田役の松重豊、副編集長で黒沢への教育係的な役割を担っている五百旗頭役のオダギリジョー、その他編集部員に安田顕や荒川良々など、一癖も二癖もあるキャストがハマっている。さらに、マンガ家役には小日向文世、要潤、滝藤賢一と、こちらも豪華だ。加えて、劇中に登場するマンガも、なんと藤子不二雄Aや、ゆうきまさみなどが協力している。  脚本を務めるのは野木亜紀子。彼女は以前、自衛隊の広報室を舞台にした『空飛ぶ広報室』(同)の脚本も手がけている。この作品も登場人物の“お仕事”の奮闘を描く、いわゆる“職業ドラマ”として出色の出来だった。  とかく“職業ドラマ”というと、登場人物たちがあり得ないようなミスを連発してトラブルを起こすことでドラマを盛り上げようとしてしまいがちだ。それをみんなで協力して劇的に解決、めでたしめでたしとなる。だが、そもそもそんなミスはまともな職業意識を持っていれば起こらないだろうし、ましてや、連発なんてあり得ない。劇的な解決であればあるほど、それができるほど優秀なら、そんなトラブル起こさないよと、冷めてしまうこともしばしばある。  だが、『重版出来!』には今のところ、そんな気配はまったくない。劇的とは真逆の実直なドラマだ。    第2話の“主人公”は、営業部の小泉純(坂口健太郎)。彼は情報誌の編集部を希望していたが、営業部に配属された。ずっと異動願いを出し続けているが、それがかなう見込みはない。 「いつになったら、この毎日から抜け出せるんだろう」  そんなことを日々思いながら、苦手な営業の仕事をこなしている。営業先の書店員からは、存在感のなさから「ユーレイ」と呼ばれている。  営業部長の岡(生瀬勝久)が、「編集が希望」と言う彼に「どんな企画を、誰にどう伝えたい?」と尋ねると、口ごもってしまう小泉。そんな小泉に、岡は諭すように言う。 「自分の立っている場所がわからないうちは、どこへも行けないと思うぞ」  岡は、「バイブス」で連載中の『タンポポ鉄道』の単行本が急に売り上げを伸ばしていることに気づく。期待されているタイトルとは言いがたく、重版もされていないにもかかわらず、異例のことだった。  実際に読んでみると、周りにその良さを伝えたくなるマンガだった。 「仕掛けるぞ」  3巻の発売を来月に控え、岡は営業部に号令をかける。そこに「営業の勉強」でやってきたのが、黒沢だった。黒沢は小泉と、返品本を切り取って作った試し読み冊子を置いてもらうため、百数十軒の本屋回りに同行する。  彼女の臆さない行動力と姿勢、そしてそれによって目に見えて変わっていく書店員の対応が、次第に小泉の意識を変えていく。自らアイデアを出し、積極的に動き始めるのだ。  勝手に売れる本などはない。自らアイデアを出し動く営業、協力的な担当編集者、作品を愛してくれて推してくれる書店員がそろった本は、大化けする可能性があるという。 「人をうらやんでいた頃はわからなかった。これが営業の仕事。これが僕の仕事なんだ!」  意識が変われば、見える景色も変わってくる。たとえば、ドラマ上でそれは、営業部長が大事にしている「忍法帳」と呼ばれる手帳が象徴している。最初は「ただの手帳」と興味なさげに言っていた小泉が、やがてその手帳を「見せてほしい」と目を輝かせて言うようになるのだ。  よく「前向きに生きなさい」と言われることがある。けれど、迷いの渦中にいる人にその言葉は届かない。なぜなら、どこが「前」なのかわからないからだ。けれど、受け身ではなく、能動的に行動をし始めると、とたんに目の前のことが「前」になる。自然と前向きになり、「自分の立っている場所」がわかるようになるのだ。 「俺たちが売っているのは『本』だが、相手にしているのは『人』だ。伝える努力を惜しむな」 と岡は言う。だからこれは出版業界を描いたドラマではあるが、どんな業界にも当てはまることだ。仕事とは、実直にコツコツと積み重ねていく作業だ。実直の果てに時には、劇的で奇跡のような成功があったりもする。  まさにこのドラマは、そんな「仕事」によってできているのだ。 『重版出来!』には、決して派手なトラブルやドラマティックな展開はない。だが、地味だけど確かに意識が変わる瞬間のような、人の仕事への向き合い方が丁寧に飛躍なしに描かれている。だからこそ、このドラマを見ているとわが身を振り返り、もっと頑張ろうと前向きになれるのだ。 (文=てれびのスキマ <http://d.hatena.ne.jp/LittleBoy/>) 「テレビ裏ガイド」過去記事はこちらから

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