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Channel: 日刊サイゾー
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気が遠くなるほど長い長いスローセックスの物語。ビートたけし主演のフェチ映画『女が眠る時』

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ウェイン・ワン監督によるミステリアスなラブストーリー『女が眠る時』。ビートたけし、忽那汐里が親子より年齢の離れた恋人を演じている。
 子どもの頃、友達の家に遊びに行って驚いた。麦茶の中に砂糖が入れてあり、ジュースのようにとても甘かったからだ。晩ご飯にはすき焼きが振る舞われたが、やはり砂糖がたっぷりと入っており、肉の味がまるでしなかった。家庭によってこんなにも食生活は異なるものかと、カルチャーショックを受けた覚えがある。大人になってから、再びカルチャーショックを味わった。付き合う女性によって、エッチに至るまでの手順がずいぶんと違うからだ。各家庭によって食生活が異なるように、セックスの在り方も異なるらしい。ビートたけし主演、ウェイン・ワン監督作『女が眠る時』は、この世界には様々な性愛があることを描いたユニークな作品となっている。  香港出身のウェイン・ワン監督は、ポール・オースター脚本による『スモーク』(95)がミニシアター全盛期の日本でも大ヒットした国際派監督だ。NYブルックリンの一角にあるタバコ屋を舞台にした群像劇『スモーク』は孤独な都市生活者同士の心温まるちょっといい話が綴られたが、日本のリゾートホテルを舞台にした『女が眠る時』はビートたけし、西島秀俊、忽那汐里、小山田サユリらのアンサンブルによって多種多様な愛の形が浮かび上がる。「こんなフェチズムがあったのか」という意外な発見を楽しむことができる。  小説家・健二(西島秀俊)の目線によって、このフェチズムの物語は語られていく。健二は処女作が文学賞を受賞してベストセラーになったものの、第2作はパッとせず、第3作を書こうにも題材が見つからずにいる。妻で文芸誌の編集者である綾(小山田サユリ)と共に海沿いのリゾートホテルに1週間の予定で滞在し、新作のアイデアが降りてくるのを待っていた。この休暇が終われば、健二は専業作家を続けるのを諦めて、定職に就くつもりだった。そんな悶々とした精神状態の中、ホテルのプールサイドに佇む異色のカップルが目に焼き付く。手足のすらりと長い若い女・美樹(忽那汐里)の横には初老の男・佐原(ビートたけし)がはべっている。佐原は美樹に日焼け止めクリームを全身隈無く塗るなど、甲斐甲斐しく世話を焼いていた。クリームを塗る手つきは、明らかに親子ではない。小説が書けずにいる健二は、綾の外出中ずっと佐原と美樹の行動を付け回すようになる。
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作家の健二(西島秀俊)は怖いもの見たさで、コワモテの男・佐原(ビートたけし)に近づく。どこまでが健二の妄想か現実か曖昧な世界だ。
 忽那汐里のうなじに生える産毛を、ビートたけしが剃刀で剃毛するシーンがひどくエロチックだ。なめらかな肌を剃刀の刃が滑っていく快感と少しでも手元を誤ると血が吹き出すというドキドキ感が、健二だけでなく観客の目線も釘付けにしてしまう。佐原と美樹の関係が気になって仕方がない健二は、カーテンを閉めずにいる2人の部屋を終始覗き見するようになる。さらに覗き見だけでは物足りず、部屋の中に忍び込むやベッドの下に潜み、2人のやりとりに耳をそばだてる。望遠レンズが手放せない『裏窓』(54)のジェームズ・スチュアートから、クローゼットの中に隠れて他人の本番行為を垣間みる『ブルーベルベッド』(86)のカイル・マクラクランへと西島秀俊は変態度を強めていく。西島の意識を介して観客は知る。映画とは覗き見願望(スコポフィリー)を満たしてくれる合法的なメディアであるということを。  リゾートホテルの近くにある民宿のオーナー・飯塚(リリー・フランキー)もかなりの変態だ。民宿のロビーにはたくさんの写真が貼ってあり、幼い頃の美樹と佐原が一緒に写っている1枚がその真ん中に飾ってあった。写真をしげしげと見つめていた健二に、ふいに飯塚が話し掛ける。「タイツとストッキングの違い、分かるか?」と。突然のエロ問答に健二は答えに窮する。飯塚は脚フェチらしく、“何デニール”のタイツにいちばん興奮するかについてのひとり語りを始める。「週刊SPA!」で連載されているみうらじゅんとの対談「グラビア魂」の世界なわけだが、初対面の男からいきなりマニアックな下ネタを振られるというのはかなり不気味だ。妻とのノーマルなセックスがマンネリ気味で倦怠期にある健二は、自分が今まで知らなかった様々な性癖を巡り歩くことになる。  いろんな愛の形が描かれる本作だが、いちばんディープなのはやはり佐原が若い美樹に抱く欲情だろう。佐原は美樹と血は繋がっていないが、美樹が幼い少女の頃からずっと面倒を看てきた。そして美樹がベッドに横たわり、眠りに就く様子を毎晩欠かさずにデジカメで撮影している。「君は若くて無垢な女が寝ているところを見たことがあるか?」と健二と顔見知りになった佐原は説く。健二は佐原が撮り続けた美樹の寝顔の画像集を見せられるが、健二の目にはどれも同じ画像にしか思えない。しかし、美樹のことを愛して止まない佐原には、一枚一枚が違って感じられる。美樹のその日の体調や2人のやりとりによって、美樹の寝顔は微妙に異なる。そのささいな違いが、佐原には愛おしくて堪らない。
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佐原は破滅願望の持ち主。「いつか、この子が私を裏切る日がくる」と美樹(忽那汐里)が姿を消すことを予感している。
 川端康成が『眠れる美女』で描いたシュナミズムの世界なのかと思いきや、佐原の場合はそれだけではなかった。美樹の寝顔を毎日眺め、彼女が少しずつ成熟した女になっていく匂いや肌つや加減をハラハラしながら見守っている。いわば、佐原はひとりの少女が女になるまでをずっと視姦し続けるという、長い長いスローセックスを楽しんでいたのだ。いつか美樹は佐原を棄てて、外の世界へと旅立っていく。美樹が本当の女になった瞬間が、佐原にとっての射精である。佐原は美樹が自分のもとを去っていく日に怯えながらも、実はその日を心待ちにしている。  傍から見ると、コワモテの男・佐原によって若い美樹は拘束されているように映るが、それは健二も同じだった。妻の綾は健二に新しい小説を、しかも売れるものを執筆するよう要求している。ホテルの部屋から外出できる自由はあるものの、健二の生活は綾によってコントロールされているのと何ら変わらない。でも綾に言わせれば、強制されて締め切りを設定されない限り、作家という人種は永久に仕事をしないのだという。夫のことを愛しているからこそ、あれこれ口を挟み、束縛するのだと。  佐原が美樹に抱いている劣情は限りなく父子の愛情に近い。そして綾が健二に注ぐ愛情は、編集者であり作家の妻であれば当然のものだろう。では、一体どこからがノーマルな愛情で、どこからが歪んだ性愛なのだろうか。その境界線はそれぞれの夫婦や恋人たちによって、ずいぶんと異なるものらしい。 (文=長野辰次)
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『女が眠る時』 原作/ハビエル・マリアス 脚本/マイケル・K・レイ、シンホ・リー、砂田麻美 撮影/鍋島淳裕 監督/ウェイン・ワン  出演/ビートたけし、西島秀俊、忽那汐里、小山田サユリ、新井浩文、渡辺真紀子、リリー・フランキー  配給/東映 PG12 2月27日(土)より公開 (c)2016 映画「女が眠る時」製作委員会 http://www.onna-nemuru.jp

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